映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

僕たちは希望という名の列車に乗った

1956年、東ドイツ、スターリンシュタット駅からベルリンに向かう二人の青年がいた。西側にある祖父の墓参だという。クルトは、数多く並んだ墓標のひとつに佇みぼそっとつぶやく。 戦死なんて意味が分からん そのあと忍び込んだ映画館で二人は西側のニュース…

荒野にて

目が覚めると父親の部屋から聞き覚えのない女の声がする。15歳のチャーリーは扉の前で少し佇むと帽子をかぶって外に出てゆく。ジョギングするのだが、普段着のせいかどこかへ走って逃げてゆくような感じもする。 学校にも行かず父親と二人暮らしのチャーリー…

幸福なラザロ

イタリアの山奥の小さな村。ひとつ屋根の下に住む年頃の娘たち。窓の外ではその娘のひとりに愛を打ち明ける歌を歌う男。場面は転換し、皆が見守る中、部屋の中で求婚する男と受け入れる女。夜通し続く祝い。小さな共同体の幸福。 ふたりはこの小さな村を出た…

希望の灯り

まるで荒れ野のような大地に、規則的に並んだ街灯が小さな灯りをともしている。夜明けの消え残りなのか、これから迎える夜の暗闇に備えるためなのか判然としない。奥には高速道路が画面を横切るように左右に伸びている。この映画を見るものは、しばらくその…

こどもしょくどう

昼は定食屋、夜は居酒屋になるような下町の食堂。小学5年のユウトは草野球チームの練習から帰ると、友達のタカシと一緒に夕ご飯を食べるのが日課だ。タカシは母親と二人暮らしで、夕飯を準備してくれないことが多いのだ。 タカシは体は大きいが、動作がのろ…

眠る村

一本の長い山道が、とある小さな村への入り口である。三重と奈良の県境にある、葛生だ。 昭和36年、この村で事件が起きた。懇親会の席で出されたぶどう酒に毒が入れられ、5人の女性が亡くなった。名張ぶどう酒事件である。事件から6日後、村に住む奥西勝が逮…

バーニング 劇場版

若者がトラックの荷物を担いでソウルの街をゆく。カメラが後ろから追う。にぎやかな通りをどこまでも追う。スーパーに入ってゆく若者ジョンスは、店の前でキャンペーンガールをしている幼なじみの女性、ヘミに声をかけられる。ヘミは「整形したので気づかな…

夜明け

遠い空で明るみ始めた山間の空気が青っぽく見えるのはどうしてだろう。一人の若者がふらふらと歩いてくると、橋の欄干によりかかり苦し気に息を吸い込む。手には花束。立っているのが辛いように、何度も顔を歪める。若者の、夜が終わろうとしている。 川の岸…

こんな夜更けにバナナかよ

車いすに座った男が、周囲の人たちに命令口調で指示を出す。水が飲みたい、背中がかゆい、寝たい、起きたい、横向きたい…。そこまで言っていたか記憶にないがそんな感じ。周りの動きが自分の意に染まないと、容赦なく叱責を飛ばす。男は鹿野靖明34歳。筋ジス…

アリー/スター誕生

ステージを終えた男は、倒れこむように車に乗り込み瓶酒をあおる。途中で車を止め、ふと見つけたバーに入ってゆく。男は店員が興奮するほど顔の知られた人気歌手だ。にぎやかな店内で、昼間ウェイトレスをして働く女が、ラヴィアンローズを歌っている。これ…

日日是好日

家族でフェリーニの「道」を見に行った。小学校5年だった。典子は何がいいか、さっぱり分からなかった。しかし、 「世の中には『すぐわかるもの』と、『すぐわからないもの』の二種類がある。すぐにわからないものは、長い時間をかけて、少しずつ気づいて、…

判決、ふたつの希望

レバノン、ベイルート。ある政治集会の模様が映し出される。人々は党首の演説に酔いしれている。キリスト教右派系のこの政党を支持するトニーは、アパートに帰ると身重の妻と二人暮らしだ。ある日、ベランダの水漏れ修理をしたいと現場監督の男が訪ねてくる…

教誨師

狭い密室にふたりの男が机をはさんで対峙している。一言も発さず静かに目を閉じている男は死刑囚、もう一人はキリスト教の教誨師のようだ。教誨師は宗教の教義に基づいて、被収容者と対話を重ねる。ある人は自らの身の上を語り、ある人は刑務官の愚痴を言い…

ハナレイ・ベイ

仕事が忙しくなかなか映画を見ることが出来なかった。久しぶりに見たのが村上春樹原作の「ハナレイ・ベイ」だった。 ハワイ・カウアイ島のハナレイ湾。美しい入り江の風景は、フラの曲にもたびたびうたわれているという。早朝、日本人の青年がサーフボードに…

子どもが教えてくれたこと

小さな子どもが病院の廊下を走り抜ける。追いかけるカメラ。 「ジェゾンは食堂にいるよ!」 シャルルが食堂のドアを勢いよく開けると、仲良しのジェゾンが確かにそこにいる。シャルルはジェゾンに本を読んであげてと院内教室の先生に頼まれたのだ。それにし…

万引き家族

スーパーに入ってくる親子。互いに合図しながら店員の目を盗み、息子の方がかばんに商品を入れてゆく。うまくいくと帰りに商店街で温かなコロッケを買う。寒い時期の物語だ。ふと見るとアパートのベランダに凍えるように女の子が座っている。昨日も見たと父…

友罪

ある町工場に、二人の若者が新入りとして入ってくる。元週刊誌記者の益田と、工場を転々としているらしい鈴木。二人は、会社の寮となっている一軒家に先輩社員と暮らし始める。益田は先輩たちともそつなく付き合うが、鈴木は愛想が悪い。部屋がとなり同士の…

フロリダ・プロジェクト

アメリカ、オーランド。夏休みの子どもたち。新しい車がやってくると、6歳の女の子ムーニーは、友だちとモーテル2階の廊下から唾を飛ばしっこする。車のフロントはベタベタ。やがて持ち主の中年女性が、ムーニーのいる部屋に怒鳴り込んでくる。 「今度は何…

オー・ルーシー!

混みあった駅のホーム。さえない年配のOLが所在無げに電車を待っている。うしろから若い男性が何かを耳打ちすると、ホームに入ってくる電車に飛び込む。呆然とする女性、節子。出勤すれば自分よりさらに年配の女性が、興味深げに聞いてくる。しかし日常は変…

タクシー運転手

1980年5月、ソウル。タクシー運転手のキム・マンソプは、学生たちがデモを行い道がふさがれることに苛立つ。客は今にも生まれそうな妊婦で病院へ急いでいるのだ。なぜデモなんかするのか。 「デモをするために大学に入ったんじゃないだろうに」 家に帰ると小…

ニッポン国VS泉南石綿村

2015年4月、大阪府泉南市で「泉南石綿の碑」の除幕式が行われている。この地域は明治の終わりから100年にわたって石綿紡織業が地場産業だったという。 資料写真を背景に監督の原一男がナレーションで説明している。石綿は耐火性や耐久性に優れ安価で生産され…

ラッキー

赤茶けた土地に灌木が茂り、サボテンが立ち並ぶ。そこに大きなリクガメがゆっくりと横切ってゆく。アメリカ南西部。90歳でひとり暮らしの男の一日がまた始まる。ゆっくりとしたウォーミングアップを行い、冷蔵庫に冷やしたグラスのミルクを飲み干す。そして…

あなたの旅立ち、綴ります

人のやることが気に食わない。家政婦がいても、庭師がいても、文句をつけては全部自分でやってしまう。お屋敷の中、夜になると孤独になる。眠れないので薬を飲む。多めに飲んでも死なずにまた病院から戻ってくる。81歳。広告業界で成功した女性、ハリエット…

15時17分、パリ行き

人混みの中、リュックを担いでキャリーバックを引きずる男。その背中をカメラは追いかける。顔は判然としない。ひげ面。そしてサングラス。やがてここが列車の駅だと分かる。男が乗り込もうとするのはアムステルダムを15時17分に出発したパリ行きの列車だ。 …

願いと揺らぎ

観音像のように見える枯れ木が一本、海沿いの集落に立ちすくんでいる。その集落は津波に洗われ、ほとんどが流されてしまった。ひとりの老婆が何もかもなくなった場所で、かつてあった自宅を案内する 「あそこがお勝手口、…ここが玄関か…」 宮城県南三陸町、…

ロープ 戦場の生命線

前方にほのかな明かりが見える。手前に何か羽根のようなものがゆっくりと回転している。暗い井戸の中から外を見上げた映像だ。やがて回転するものが人間だと分かる。井戸に落ちた人間をロープで引き上げているのだ。しかし水を含んだ死体は重く、ロープが切…

スリー・ビルボード

アメリカ・ミズーリ州。さびれた道路に朽ちかけた3枚の広告看板が並ぶ。写真も剥がれ落ち、そこに何も読み取ることは出来ない。「あんな道は迷ったやつか、ぼんくらしか通らない」という道路で、今や広告を出す人間など誰もいない。ミルドレッドはこの3枚の…

デトロイト

1967年、アメリカミシガン州デトロイト。無許可で営業する黒人の酒場が摘発された。客と従業員を次々に車に乗せる白人の警察。やがて近隣の黒人たちが周りを取り囲みはじめる。最後の車が行ってしまうと、黒人たちはやりきれない怒りに任せて周囲の店を襲う…

はじめてのおもてなし

ドイツ、ミュンヘン。ひとりの難民の青年が美容院で髪の毛を切っている。仲間から、その髪型だとドイツ人に嫌われるとアドバイスを受けたのだ。ナイジェリアから逃がれて来たディアロは、難民センターで暮らしながら、難民の認定を待っている。 と、ここで画…

ラサへの歩き方 祈りの2400km

五体投地という言葉に惹かれて映画を見た。―中国チベット自治区の東、マルカム県プラ村。薪をストーブにくべると子どもたちが目を覚ます。標高4000mの高地で人々はヤクを放牧し、薪を集めるために森に入る。父親を亡くしたばかりのニマは、父親の弟ヤンペル…