映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

キネマの神様

映画があるじゃない ( 娘の歩の言葉) 山田洋次89歳の89作目の作品。この映画の原作となる小説を書いた原田マハは、山田監督について、 「滋味あふれる人生を描き、人情深い映画の数々を撮ってきた伝説の監督」 と語る。果たしてこの映画は? ギャンブルに…

復讐者たち

映画の冒頭、観客に問いかけるナレーションで始まる。 「何の罪もない兄弟姉妹、両親、子どもたちが殺された、と知ったとき、あなたならどうする?」 ドイツ。郊外の農家にひとりの男が現れる。ホロコーストを生き延びたユダヤ人のマックスだ。家主は猟銃を…

ミナリ

失敗するとわかっててあなたを信じるなんて。私は疲れ切ってるの (モニカの言葉) アメリカ南部アーカンソー州の田舎道を引っ越しのトラックが走る。到着したのは何もない原っぱのような平原。そこに1台のトレーラーハウスが停まっている。 「ここは何?」 …

わたしはダフネ

匂いを嗅いでみて。同じ匂いがするでしょう? (ダフネの母親の言葉) ダフネ、赤い髪の女性。靴に入り込んだ石ころを気にしていたが、取れると母親と並んで歩いてゆく。イタリアの夏の別荘地。休みが終わり、そろそろ帰り支度というときに、ダフネの声が響…

ファーザー

「あなたはいったいいつまで我々をイラつかせる気ですか?」 (娘婿の言葉) ロンドンで一人暮らす81歳のアンソニー(アンソニー・ホプキンス)。娘のアン(オリヴィア・コールマン)が慌てて部屋に入ってきたかと思うと、介護人が辞めてしまったと文句を言…

名も無い日

「怖ろしくて怖ろしくてどうしようもない。こんな気持ち、あんたにわかるん?」 (章人の言葉) 熱田神宮の熱田まつりは毎年6月、名古屋に夏の到来を感じさせる祭りだという。お椀をさかさまにした形にいくつもの提灯が飾られ、高さ18mの巨大な光のモニュ…

やすらぎの森

「苦しみから逃れるために孤独になった。今だったらそんな選択はしない」 (画家テッドの言葉) カナダ、ケベック州の南西部。鬱蒼とした針葉樹の森のなかに小さな湖がある。畔に暮らすのは世を捨てた3人の老人。ウサギを捕まえ、魚を釣る自給自足の生活。湖…

茜色に焼かれる

30がらみの男が鼻歌を歌いながら自転車に乗っている。幹線道路の交差点を渡ろうとするが、1台の乗用車が猛スピードでやってくる。あっという間の事故。乗用車にはアクセルとブレーキを踏み間違えた高齢ドライバーが乗っていた。 物語はその7年後から始まる。…

すばらしき世界

窓の格子に雪が積もっている。旭川刑務所。初老の男がこの日、13年の刑期満了を迎える。刑務官とのやり取りで、自分の行った殺人を少しも反省していないとわかる。刑務官も持て余す男だったらしい。笑いながら「三上だけはもうごめんだ」という。三上正夫、…

羊飼いと風船

曇りガラスのようなものを通して見える青空。幼い兄弟が見ているのは、羊たち、おじいちゃん、そしてお父さんがバイクに乗ってやって来る。曇りガラスのようなものは風船だ。だけどただの風船ではない。枕の下にある風船。だからお父さんにこっぴどく叱られ…

この世界に残されて

第二次世界大戦後間もないハンガリー。16歳のクララは初潮を迎えるのが遅く、心配した叔母に連れられ産婦人科で検診を受けている。 医師のアラダールが、 「お母さんも不順だった?」 と問うと、 「まだ生きてる」 と強い口調で答える。だが、すでに両親と妹…

燃ゆる女の肖像

白いキャンバスに線が引かれる。モデルの女性がふと気づいたように、自分を描き始めた画学生に訊ねる。 あの絵は何? 部屋の片隅に立てかけられたそれは、モデルとなって画学生を教えている女性がかつて描いた絵だった。足元のドレスが燃えている女性。タイ…

朝が来る

5歳の子どもの歯磨きを見守る母親、佐都子。不自然なほどのアップが、ありきたりの日常の幸せを伝える。やがて幼稚園で起こる、ありがちないざこざも、悩む母子の性格の良さを浮き彫りにする。そんな母親にあるとき、一本の電話がかかってくる。 「子どもを…

望み

高校のグラウンド。サッカーの試合が行われている。ゴールを狙う選手が倒れる。駆け寄るクラスメイト。画面は上空に切り替わる。埼玉県のある町が映され、やがてゆっくりと下降し、ある瀟洒な家のあたりを漂う。そこに挟み込まれる幸せな家族の写真―。 建築…

ある画家の数奇な運命

1937年、ドイツ・ドレスデン。少年クルトは叔母エリザベトに連れられて美術館に来ている。そこではカンディンスキーなど、抽象画の世界を否定する学芸員の説明が行われていたが、エリザベトは「これが好きなんだけど」とクルトにささやく。 その帰り、エリザ…

行き止まりの世界に生まれて

早朝。立ち入り禁止の廃墟ビルに侵入する若者たち。だが、底が抜けたようなスカスカの非常階段を上っていくうち、ひとりが怖くなってやめようと言い出す。死にたくないからな―。するとみんな同意して降りてゆく。なんとも締まりのないオープニングだが、その…

ポルトガル、夏の終わり

ポルトガル、シントラ。ホテルのプールサイドにひとりの女性が降りてくる。誰もいないプールで水着をとって泳ぎ始める。イザベル・ユペールだ。高校生くらいの女の子がやってきて、 「写真を撮られるよ」 というが、 「私は写真映えするからいいわ」 と気に…

グレース・オブ・ゴッド 告発の時

フランス、リヨン。街を見下ろす高台には古い大聖堂がそびえる。人々はここに長く祈りを捧げてきた。ところが…。 1970年から20年にわたって、少年たち80人以上に性暴力を働いた神父がいた。ベルナール・プレナ神父だ。この作品は、被害者の子どもたちが大人…

はちどり

ドアの前で母親を呼ぶ女の子。呼び鈴を鳴らすが誰も応答しない。お母さん、お母さん…ふざけないで…。ドアを引っ張り、地団太を踏む。カメラが徐々に引いていくとそこが団地だとわかる。少女は不在の家族を呼び続ける。 ただこのファーストシーンと次のシーン…

その手に触れるまで

階段を駆けあげる男の子。トイレに駆け込むと携帯で連絡を取る。 「早くしないと遅れてしまう」 教室で数学の問題を先生と解く、先ほどの男の子アメッド。放課後の補習授業なのか、そわそわしながらも問題を解く。携帯が鳴る。すぐに出ていこうとするが、先…

ルース・エドガー

久しぶりに映画館で映画を見た。検温、アルコール消毒、上下左右に開いた席。ただ席に関して言えば、ガラガラだった。映画のせいではなく、自粛のせいだろう。とても面白い映画だったから。(気分一新して、このブログの背景を変えてみました。) ルース・エ…

あなたを抱きしめる日まで (2013年)

イギリス。年老いた女性が、自らの若き日を回想している―。 ある日偶然に知り合った男性。一夜限りの関係。妊娠。恥とされ秘密裏に入れられたアイルランドの修道院。休みのない労働の日々の中で、生まれた子と過ごせるのは一日一時間。しかしそれは、何にも…

午後8時の訪問者 (2016年)

ベルギー、リエージュ。小さなクリニックで研修医に指導する女医がいる。ジェニーという。ひきつけを起こして子どもが倒れても、ぼーっと見守る研修医。ジェニーは研修医の態度が気に入らず、少し強めに注意する。その時、玄関のベルが鳴る。午後8時、クリ…

牯嶺街少年殺人事件 (1991年)

冒頭にテロップが流れる。 「1949年頃、中国から数百万人が国民党政府とともに台湾に渡り、だれもが安定を願った」 いわゆる外省人である。小四(シャオスー)はそうした外省人の公務員の息子だ。建国中学の入試に落ち、夜間部に通っている。 「しかし子ども…

百円の恋 (2014年)

一子(いちこ)という変わった名前の女がいる。町の弁当屋の娘で32歳。ろくに店を手伝わないでダラダラと過ごす毎日。生きているのさえ面倒くさそうな。今、妹が息子を連れて出戻っているが(名前は二三子)、いつも大喧嘩だ。ケチャップを頭の上からかけら…

めぐりあう時間たち(2002年)

DVD

ロンドン郊外。川が静かに流れている。ひとりの女性が上着のポケットに大きな石を入れ、身を沈めてゆく。1941年、作家ヴァージニア・ウルフは夫への手紙を残して亡くなった。 「今までの私たち以上に幸せな二人は他にいません」 しかし映像は1923年に遡る。…

レ・ミゼラブル

2018年、フランスがサッカーW杯を制した。パリ郊外の団地に住む移民の子どもたちも狂喜し、フランスが一体となる場面から映画が始まる。 だが、日常に戻ったパリ郊外の団地では、不穏な空気がいつも流れている。パリの華やかさとは天と地ほどかけ離れた、貧…

37 Seconds

ユマは23歳。脳性麻まひで車いす生活を送っている。母親と二人暮らし。冒頭、母親とふたりで風呂に入る。リアルで生々しいそのシーンが、物語の先行きを告げる。 ユマは友人のサヤカと共同でマンガを発表している。ただしユマはいないことになっている。本…

ジョジョ・ラビット

鏡の前で10歳の少年が、自分自身に向かってつぶやく。 「ジョジョ、10歳。今日からお前は男になる」 第2次大戦下のドイツ。ジョジョはこの日からヒトラーユーゲントの合宿に参加する。ところが、運動音痴で内気なジョジョは失敗続き。ウサギを殺せと言われ…

シュヴァルの理想宮

19世紀の末、フランス南部の片田舎にシュヴァルという男がいた。若くして妻を亡くしたが、その葬儀の時でさえ人前に出ることを嫌がるほどの、極端な人見知りである。変わり者だったせいか子どもは親せきが引き取り、シュヴァルは一人で生活するようになった…