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映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

おみおくりの作法   ~人生をリスペクトする方法

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監督・脚本・製作:ウベルト・パゾリーニ

主演:エディ・マーサン

イギリス=イタリア/110分

原題「STILL LIFE」2013

 

どこか個性的な顔立ちの中年男が主人公だ。役所の民生係で、身寄りのない死者の弔いを仕事にしている。一見風采の上がらないこの男の顔が、物語が進むにつれて陰影を帯び、内側から輝き始める。映画はまさしくその変化の物語である。

 

この男の仕事はとても丁寧だ。亡くなった人たちの身寄りを訪ね、葬儀に誘い、当日は誰も来なくても自ら選んだ曲を流し静かに弔う。その日の夜には自宅で、彼や彼女の古い写真を自らのアルバムに貼り付け、その人生を想像する。最終的に身寄りの無い人たちの人生は決して幸福とは言えないかもしれない。ただ彼にはひとつの確信がある。どんなささやかな人生も丸ごとリスペクトする価値がある―。

 

彼はこの仕事をいつから行っているのだろう。役所に勤め始めた22年前からか。それともどこかのタイミングで異動となったのだろうか。人生の最期に心を込めて送ることがとても大事なことなのだと、いつ気づいたのだろう。彼はこの仕事をこのようなやり方(作法)で行うことで、44歳の今に至るまで独身で身寄りの無い自らの人生も救っていた、と言えるかもしれない。原題は「STILL LIFE」だが、「おみおくりの作法」と邦題にしたのはその意味もあるのだろう。

 

彼は墓地の一等地を買い、自分が亡くなったときにはそこに入ろうとしていた。担当した死者の埋葬が終わるとそこを訪れ、その上に寝転んで空を見上げる。その顔を空から見ているカットがある。静かに空を見つめるその顔に、静かな諦観が浮かぶ。

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そんな彼の穏やかな生活にある日、大きな変化が訪れる。役所の効率化で突然解雇を言い渡されるのだ。物語はそこから動き始める。彼は最後の仕事となった同じアパートの老人の弔いを全うしようと、イギリス中を駆け巡りたくさんの人と出会う。そして彼自身も少しずつ変わってゆくのだ。ついにはその老人のために自分が買っておいた墓所を提供してしまうほどに。墓所を捨て、彼は今まで想像すらしなかった新たな人生を歩く決心をした。しかし…。

 

映画を見ながら、家族が亡くなったあとの喪失感を思い出した。それは一緒に過ごした様々な場面が、本当に存在したかどうか怪しくなるような不安定感だった。思い出は共有できる相手を失うととたんに現実味を失ってしまう。この映画の主人公は古い写真から、亡くなった人の人生を想像し、その人生の思い出の瞬間を自分の心の中にしっかりと留めておこうとする。死にゆく人の思い出を自分が共有し、死者があの世で寂しくないように。

 

映画のラスト近く、再び彼の顔を空から見ているカットが映し出される。そこには諦観ではない、静かな微笑があった。それはこの映画が最も見せたかった表情に違いない。

 

公式サイト http://bitters.co.jp/omiokuri/sp/