映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

海街diary

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わたしの両親はいわゆる「不倫」だった―。原作漫画のモノローグで語られるこの言葉が、主人公浅野すずの心に澱のようにたまっている。

 

浅野すず、14歳。仙台で生まれる。母親を急な病気で亡くし、父親はその後再婚して山形の小さな温泉街に。しかし父親も間もなくガンで亡くなってしまう。

父親の葬儀の時、3人の異母姉妹と初めて出会う。父親は小さかったこの3姉妹とその母親を捨て、すずの母親と一緒になったのだ。

 

映画はその3姉妹とすずが、鎌倉の古い民家でともに暮らす1年間を綴る。しっかり者の長女、幸。大酒のみの次女、佳乃。天然キャラの三女、千佳。父親が出て行ったあと、母親も別の男性と出て行ってしまい、3姉妹は祖母に育てられた。その祖母ももういないが、祖母が毎年のように庭木の梅で作った梅酒づくりは今も受け継いでいる。

 

山形での葬儀の日、3姉妹を温泉街を見下ろす高台を案内して、すずは泣く。抱え込んでいた多くの思いを吐き出すように。3人の前で泣けたことが鎌倉でともに暮らすことを決心させたのだろう。原作ではこの場面、すずは号泣する。蝉時雨が聞こえなくなるくらいの声で。そして再び蝉時雨が聞こえてきた時、4人は亡くなった父親への思いで、ひとつになる。       

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すずは鎌倉の暮らしで少しずつ、自分を取り戻してゆく。しらす干し作業の手伝い、男の子と2人乗り自転車で走る桜のトンネル、漁船で海の上から見る花火…。すずの天真爛漫な笑い。そこには飾らない本当の笑顔がある。しかし、すずにとって、自分の母親がこの家庭を壊したのだという罪の意識が消えることがない。そんな時、祖母の一周忌に3姉妹の母親が来るという連絡があって…。

 

この映画ではよく人が亡くなる。死者が生きているものの傍にいて語りかける。今はないが今も存在するものがそこここにある。人は亡くなっても残してくれたレシピでその味は残ってゆく。おばあちゃんの梅酒やちくわカレーのように。お父さんが作ってくれた、しらすトーストのように。担う人が代わっても祭りは伝わり、伝統の漁は受け継がれる。季節が巡り自然の営みが繰り返されるように、人の生き死にが繰り返される。私たちは、死者とともにある。

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監督は是枝裕和。原作は吉田秋生。原作の漫画はとても内省的だ。その特徴はシーンの間に挟み込まれる彼女たちのモノローグにあるといっていいだろう。映画はそのモノローグを排した。この映画はモノローグのない「海街diary」ともいえる。その結果、時折内面を吐露する彼女たちのセリフが、震えるような心のありようを伝えることに成功している。すずの母親についての言葉が、血が噴き出すように生々しく感じられるのもそのせいかもしれない。

 

「奥さんがいる人を好きになるなんて、お母さん良くないよね。」

 

ラスト近く、長女の幸は父親によく連れて行ってもらったという鎌倉の高台にすずを連れて登る。そこで幸は大声で叫ぶ。「お父さんのばか!」と。すずは少し躊躇しながらも幸にならう。「お母さんのばか!」。そしてこうつぶやくのだ。

 

「…もっとそばにいて欲しかったのに…。」

 

この映画は感情が高まるシーンが随所にある。そのシーンがすずの心をほぐしているようにも見えるが、しかしすぐに日常の暮らしに戻る。その繰り返し。ただ、その繰り返しによって「時」がすずの心の澱を少しずつ取り除いて行くかもしれない、そんな希望を抱かせる。そして映画のラストシーンが終わっても日常は繰り返されるのだ、もちろん。    

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監督・脚本・編集是枝裕和

主演:綾瀬はるか長澤まさみ夏帆広瀬すず      2015/128分

公式サイト    http://umimachi.gaga.ne.jp/

f:id:mikanpro:20150625223141j:plain    原作「海街diary吉田秋生 小学館フラワーコミックス

 

ちょっとひと息

今回の映画は小田原コロナで見ました。割引券を毎回配っており、お得に映画を見ることができます。でも小田原近辺でない人は関係ないですね。この映画をみてアジフライが無性に食べたくなり、小田原駅前の商店街でアジフライ定食を食べました。「八起」というお店です。居酒屋ですけど、それなりにホクホクと美味しかったですよ。ちなみに小田原にはシラス丼が美味しい店もたくさんあります。☕☕

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