映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

沖縄 うりずんの雨

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うりずんとは、沖縄で春分から梅雨に入る時期までのこと。「潤い初め(うるおいぞめ)」が語源であるらしい。70年前のうりずんの季節に沖縄戦が行われた。沖縄では今もこの時期になると当時の記憶がよみがえり、体調を崩す人たちがいるという。

 

映画は、沖縄戦から戦後アメリカによる占領、本土復帰後の基地問題を、4つの章に分け、何人もの証言と映像でその実相に迫ってゆく。監督のジャン・ユンカーマンは言う。

 

「私たちは、沖縄戦を生き抜いた沖縄、日本、米国の人々のインタビューを通じ、その人たちの心の中には共通したトラウマがいかに鮮明に残っているかを知った。」

 

沖縄戦では、戦場の悲惨な記憶は兵士にとどまらず住民にも及ぶ。そしてそれが占領、基地問題と形を変えて今に続く。この映画の英題はThe Afterburnという。この題についてジャン・ユンカーマンはこう語っている。

 

「『Afterburn』って一般的な言葉ではないんですけど、炎が消えたあとにもやけどが続く。残るということじゃなくて、続く。時間の経過とともにより深くなっていくという意味なんですよ。」

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4章のひとつに「凌辱」というタイトルの章がある。ここではチビチリガマで起きた集団自決、そして戦後米軍兵士による沖縄女性への性暴力が語られる。元陸軍憲兵隊のブルース・リバーは言う。「レイプはいつも起こっていて、大したことだとはされていなかった。」と。そして1995年9月。

 

「1995年9月4日。金武の町で、キャンプ・ハンセン海兵隊基地所属の3人の米兵が、12歳の女子小学生を拉致し、強姦するという事件が起きました。この事件をきっかけに、沖縄では米軍基地と日本政府に対する基地反対の抗議運動が、燃え上がりました。」(ナレーション)

 

驚いたのは、この事件の犯人の一人、ロドリコ・ハープがインタビューに応じていることだ。当時21歳の海兵隊員。懲役7年。服役後アメリカに戻り、現在は失業中だという。

「どうせ地獄に落ちるんだ。神の許しなどより、彼女は本当に許してくれるだろうか。世間が許してくれることはないだろうが、彼女は許してくれるのか。」

ロドリコ・ハープは沈痛にこう語る。しかし、被害者はおそらく許せないだろうと思う。彼が本当のところどう思っているのかはもちろん分からない。ただこうした映画のインタビューに応じるということは、何か「許し」をもらいたくて喘いでいる、そんな印象を受けた。犯罪被害者と加害者の間の「許し」の問題はこの映画の枠を超えているが、ジャン・ユンカーマンはあえて言う。

「問題の根は深い。構造的な問題もあり、それを伝えるためにも加害者の声が必要だった。」

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(1995年10月 8万5千人の決起集会 沖縄タイムス社刊『写真記録 沖縄戦後史』)

沖縄は「凌辱」されている。この意識が基地反対を掲げる人たちの内面に渦を巻いているのだろう。そしてそのことを分かろうとしない本土の人間に苛立つのだ。普天間基地辺野古移設に反対する翁長知事が誕生した際、NHKのニュース番組でキャスターの大越氏が「ではどこに基地を持っていけばいいのか」と問うた。すると知事は「それを沖縄に考えさせるのか」と問い返した。本土との温度差はこのやりとりに端的に表れているように思う。映画は今に至る沖縄の人々の意識を冷静に丹念にたどることで、もう一度日米協力の在り方を具体的に考え直すことは出来ないかと、改めて問うている。

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映画の冒頭近く、普天間基地のフェンスに抗議のテープを結びつける人が映し出される。そして映画の後半にフェンスの清掃活動をしている人たちが映し出される。テープが汚いのではがしているのだ、という。テープを張り、テープがはがされ、そしてまたテープが張られる。しかし両者の間に対話はない。沖縄の現実を映し出す印象的なシーンだった。

 

公式サイト 

http://okinawa-urizun.com/

監督:ジャン・ユンカーマン
企画・製作:山上徹二郎
英題「The Afterburn」 2015/148分