読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

ヒトラー暗殺、13分の誤算

f:id:mikanpro:20151025205724j:plain

真っ暗闇の中、口に懐中電灯をくわえた男が必死にダイナマイトを詰めている。そこはビアホールの2階に伸びた大きな柱だ。その真下にはやがて行われるヒトラーの演説台がある。…数時間後ダイナマイトは爆発するが、その時ヒトラーはすでに演説を終えていた。13分早く切り上げたのだ。

 

タイトルの「誤算」とはこのことだが、映画の主題は別にある。男はゲオルク・エルザ―という。実話である。エルザーはもともとノンポリで、女遊びの好きな音楽家だった。町にナチス党員が幅をきかせはじめた頃、友人たちが彼らと口論になり取っ組み合いのけんかをしても、素知らぬ顔。人妻と抱擁しながら「暴力では何も解決しない」と言う男だった。そういう男がなぜ?

 

事件後エルザーはあっけなく逮捕される。単独犯では面白くないヒトラーナチス幹部は、執拗に黒幕の存在を問いただし拷問を繰り返す。映画はこの尋問シーンにエルザーの回想を挟み込みながら進む。回想では、エルザーの周りのドイツ社会が、ナチス一辺倒に変貌を遂げてゆくさまが描かれる。仲の良かった友人、隣人が異分子として排除されてゆく。社会の空気圧がエルザーを押しつぶし始める―。               

                    f:id:mikanpro:20151025205911j:plain

監督はオリヴァ―・ヒルシュピーゲル。58歳。2004年「ヒトラー~最後の12日間~」で世界の注目を浴びた。

 

「特に西側諸国ではプライバシーというものがどんどん軽視されてきています。管理体制が強くなり、皆が決められた方向を向かなければいけないという考え方が、ちょっと出てきている。(…)政治に参加しなければ間違っているという意思も示せず、行動することもできない。だから我々は目覚めていなければいけません。覚醒し続けていなければいけないし、眠ってしまっている人は再び目を覚まさなければいけません。」

 

だが、エルザーは決して英雄ではない。悲劇の人だ。時代の空気圧が少数派を押しつぶす。息もできないほどの力で。このままでは生きていけないとまで思うほどに。その時、「暗殺」「テロ」という手段しかなかったところが悲劇なのだ。暴力を否定していた人間が進んで暴力を使うようになる。ゼロかすべてか。オセロのように反転する。間がない。こういった状況に至ったとき、すがることのできるものは何なのだろうか。

f:id:mikanpro:20151025210413j:plain

数年前、同じドイツで「海賊党」というインターネットを駆使する若者の政党が出現し、大いに人気を集めたことがある。年配の保守層からは顰蹙を買っていたが、その時彼らはこう語っていた。

 

「自分たちの役割は、硬直した社会に風穴を開けることだ」

 

時代が煮詰まってきた時に必要なのは「風穴」だ。「風穴」とは社会の「異分子」のことだと思う。時代が一方向に煮詰まり始めたら、異分子と言われる人の話に耳を傾ける。左右関係なく。それくらいがちょうどいいのかもしれない。

 

「日本人は、ドイツ人と同じように、言われたことに従属してしまう国民性だと思う。だからこそ、どんどん問いかけ、何も考えずに受容することをやめていこう!ということを(映画から)感じてほしい」

毎日新聞・ヒルシュピーゲル監督インタビュー)

 

映画は最後、エルザーの銃殺で終わる。ドイツ降伏の一月前のことだった。壁に向けて立たされ後頭部に銃を押し付けられたエルザーは、黙って画面に目を向ける。そこで暗転する。その最後のまなざしが、目に焼き付く。私たちに問いかけているのだ。

「こういった状況に追い込まれることは、これからだってあり得る。君ならどうする?」

 

監督:オリヴァー・ヒルシュピーゲル

主演:クリスティアン・フリーデル

原題「Elser」ドイツ 2015 / 114分

公式サイト

http://13minutes.gaga.ne.jp/

 

ちょっとひと息

今回は日比谷TOHOシャンテで見ました。昔はTOHOの名前がなく「シャンテ シネ」だったのを6年前から改名したようです。ラインナップを見ても、TOHOでありながら「ミニシアター」系の映画館を目指して今に至っていることが分かります。日比谷からちょっと歩きますが、銀座には「カフェ・ド・ランブル」があります。言わずと知れた日本を代表するような珈琲店ですね。店を入ると焙煎機の横にいつも座っていらっしゃるのが店主の関口一郎さんなんでしょうか。(確かめてみたことはありませんので、違っていたらごめんなさい)昭和23年開業ですからもうすぐ70年なんですね。凝った珈琲通だけが来る堅苦しさもなく、珈琲ともども居心地のいいお店です。☕☕

f:id:mikanpro:20151025211623j:plain   お店のHP http://www.h6.dion.ne.jp/~lambre/