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映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

シーヴァス 王子さまになりたかった少年と負け犬だった闘犬の物語

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眼差しにどこか暗い独特の光を湛えた少年である。11歳-。身の回りの世界が少しずつくっきりとし始める頃、世界と自分との間に広がってゆく違和が少年を苛立たせる。

 

トルコの東部アナトリア地方。乾いた砂ぼこりが舞う砂漠のオアシスのような村だ。学校で行われる舞台「白雪姫」の王子役が村長の息子に決まった。「王子役は僕がいいのに。」納得のいかない少年アスランは友達に毒づき、先生の家にまで押しかけてしまう。

 

そんなある時、村に闘犬の一団がやってくる。大きな犬同士が死に物狂いで咬みあい闘う。一方は村長の犬、もう一方はシーヴァスと呼ばれる犬だった。やがてシーヴァスは敗れ倒れる。飼い主たちに見捨てられたシーヴァスを、アスランは自分の家で飼い始める。そして傷が癒えた時、村長の犬と再び戦うことになるのだが…。

 

監督は、これが長編第一作というトルコのカアン・ミュジデジ。数本の短編を撮ったあと、闘犬とそのオーナーの短編ドキュメンタリーを作ったという。

 

「私が興味を持っているのは人間の心理です。ただ動物を観察することで、人間心理が垣間見えることがある、そこに興味を引かれます。」

 

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最初の闘犬のシーン。死んだと思ったシーヴァスはしばらくしてゆっくりと立ち上がり、茂みの中に歩いてゆく。アスランはその後を追うが、やがてちょうどよい場所に座り込んだシーヴァスに一喝される。自然な犬の動きをそのまま追いかけて撮ったような見事な映像だ。一頭の犬が人間の思惑とは別の意志をもち、生きていることを如実に感じさせる。

 

アスランは、王子役を取られた自らの姿をシーヴァスに見出し、彼の復活に自分のプライドをかける。しかしやがて彼の中で、別の感情が芽生え始める。犬が闘うのに耐えられなくなるのだ。

 

「シーヴァスは番犬として飼ってるんだ。親が自分の子を闘わせるのか?犬にも魂はある。闘わせたくない。」

 

しかし、シーヴァスはそうした少年の気持ちとは無関係だ。自分の宿命を淡々と受け入れているような風情で闘いの場に臨む。子供と大人の違いほどに、アスランとシーヴァスの心には隔たりがある。そしてこの隔たりがこの映画にリアリティを与えている。監督のカアン・ミュジデジは言う。

 

「人間は女性や動物に対して暴力を振るいます。そのような暴力的な性質が、いつか人間の中からなくなる日が来ることを願っています。この映画でアスランは、大人の男たちと犬との間で揺れ動きます。男たちの暴力の世界へ向かうのか、それとも動物たちの世界に近づいていくのか?」

 

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闘い終わった後、大人たちがはしゃぐ車の中で少年は再びつぶやく。

 

「闘わせたくない…。」

 

その思いは大人たちの誰も理解できない。少年は孤独に、車窓を過ぎ去ってゆく乾いた大地を眺める。なぜ自分がそう思うのかが分からずに。

 

監督・脚本:カアン・ミュジデジ

主演:ドアン・イズジ

原題「SiVAS」トルコ・ドイツ合作 2014 / 97

公式サイト

http://sivas.jp/

 

ちょっとひと息

今回は渋谷のユーロスペースで見ました。11月11日に受付で「わんわん」と言えば入場料が千円になる、とあとでHPで知りました。まあ千円なら…?ユーロスペースから松濤のほうへ少し歩くと、「カフェ・タカギクラヴィア」があります。グランドピアノが置いてある落ち着いた喫茶店で、秩父にあるカレー専門店の「マジョラムカレー」もなぜかメニューにあります。土台はピアノの調律会社なんですね。珈琲は各種ストレートもあり。ブラジルを頼みました。600円とちょっとお高め。クラッシック好きにはおススメです。☕

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