映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

はじめてのおもてなし

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ドイツ、ミュンヘン。ひとりの難民の青年が美容院で髪の毛を切っている。仲間から、その髪型だとドイツ人に嫌われるとアドバイスを受けたのだ。ナイジェリアから逃がれて来たディアロは、難民センターで暮らしながら、難民の認定を待っている。

 

と、ここで画面が一転する。閑静な住宅街の大邸宅。病院の医長をつとめるハートマン氏は、元教師の妻と二人暮らし。すでに老境だが、自分の「老い」は意地でも認めたくない。友人の整形外科医にヒアルロンサン注射をしてもらってしわを伸ばし、同じような整形女性が集うクラブに通っている。

 

息子はバツイチのシングルファーザー、加えてワーカホリック。娘は31歳にしてまだ大学生。それぞれに問題を抱えている。ある日、こうした家族を前に妻のアンゲリカが突然宣言する。

 

「難民をひとり家に受け入れることにしたわ」

 

ハートマン氏は口角泡を飛ばして大反対。だが妻の決心は固い。しぶしぶ難民センターに行くハートマン氏だったが…。                                                         

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これはコメディ映画である。監督はサイモン・バーホーベン。もともと制作のテーマは「難民」ではなく、「家族」だそうだ。

 

「今回の映画はまず家族の物語です。登場人物の構想は既に出来上がっていましたが、何かが足りなかった。そんな時、難民を絡めるアイデアが浮かびました。・・・生死にかかわる問題に直面したアフリカ人が、裕福なドイツの家庭に来たらどうなるのだろうか?」

 

まずハートマン氏は難民センターで「好きなのを選んでいいんですか?」と訪ねる。するとセンター職員はこう答えるのだ。

 

「動物保護施設じゃない」

 

難民センターではおとなしく暮らしていたディアロだったが、ハートマン家で暮らすようになると、いくつもの騒動に巻き込まれてしまう。しかし彼は難民として認定されないと追い返されてしまうのだ。果たしてこんなことで大丈夫なのか。登場人物のほとんどはカリカチュアされ面白おかしく物語は進んでゆく。

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ディアロは祖国で壮絶な経験をして、命からがらここにいるわけだが、多くを語らないのでハートマン一家はうまく想像できない。ただ彼が違う文化と価値観を持っているために、言葉のはしはしが意表をつくものになる。そのため、自らを客観的に見てしまう機会を与えられるのだ。

 

なかでもハートマン氏に食って掛かる娘に対して、「父親に敬意を持たなければいけない」と諭すシーンは面白い。ディアロはその理由を

 

「老人なのだから」

 

というのだ。その瞬間のハートマン氏の憮然とした表情が笑える。老人であることを忌避する社会と老人であることを誇りに思う社会。先進国というのはやはり、何か大事なものを捨て去ってきたのだと感じてしまう。その代わりに得たものはいったい何だったのだろうか。                                          

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ハートマン一家はこの異文化の申し子によって、硬直した関係に少しずつ変化を見せてゆく。一家にとってはいいことばかりのようだ。しかし物語の終盤、「親戚を大勢呼び寄せる」とディアロに言われ、ハートマン氏は絶句する。「冗談、冗談」と笑うディアロだが、そこに現実の苦い味がじわじわと染みてくる。

 

監督・脚本:サイモン・バーホーベン
主演:ハイナー・ラウターバッハ、センタ・バーガー、エリック・カボンゴ
ドイツ  2016 / 116分 

公式サイト

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