映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

オー・ルーシー!

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混みあった駅のホーム。さえない年配のOLが所在無げに電車を待っている。うしろから若い男性が何かを耳打ちすると、ホームに入ってくる電車に飛び込む。呆然とする女性、節子。出勤すれば自分よりさらに年配の女性が、興味深げに聞いてくる。しかし日常は変わらない。

 

ある時、姪が連絡してきて、英会話教室に前払いしているのだが、自分の代わりに通ってくれないかと頼まれる。お金が無くなったというのだ。60万だという。仕方がない。教室を訪ねてみると、怪しげなビルの一室で、いきなり教師にハグされ、ルーシーという名前を付けられ、金髪のかつらをかぶせられる。驚くが、悪い気はしない。それどころか、このイケメン先生に惚れてしまうのだ。

 

しかし、次に行くとイケメン先生はもういなくなっている。実は、彼は節子の姪と恋人同士で、二人してアメリカに行ってしまったのだ。節子は娘を心配する姉とアメリカ行きを決意するが…。     

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監督は平栁敦子。ニューヨーク大学大学院映画学科修了作品の短編「Oh Lucy!」が各国で賞を受賞。これはその長編バージョンだという。

 

「語学力や年齢にかかわらず、本当のことを言っていいのか、言わない方がいいのか、迷うことってありませんか? 特に『女の子なんだから静かにしなさい』と言われて育った日本の女性には多いような気がします。『目立つことはしないように』と言われがちなOLの節子に、ルーシーというキャラクターを通して自分の本音を叫んでほしいと思いました。」

 

節子はルーシーという名前をもらい、カツラをかぶってからタガが外れてくる。自分の気持ちに正直になる、と言えば聞こえはいいが、心の中のどろどろまで一緒に吐き出してしまうようになる。それは、これまで外に出るのを押さえつけ、体内にたまって腐食し続けていた欲望のようなものだ。これは吐き出しきるまで終わらない。吐き出しきってもどうなるか分からない。ただルーシーという名前を与えられただけで、なんと人間は繊細で単純なものだと改めて思う。

 

イケメン先生からは「狂ってる」とまで言われ、結果的に姪にもひどい仕打ちをすることになる節子。若ければ一連の出来事は青春だったかもしれないが、ある年齢に達すると同じ事が悲劇に見える。

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人はいくつもの人格を場合によって使い分けたりするものだと思う。同時に、素の自分と社会の中で見せる自分にもギャップがある。しかしそのギャップが、人間としての複雑な魅力を生んだりもするのではないか。節子の悲劇はその複雑さがうまく醸成されないで水と油のようになっていることなのだろう。

 

映画には英会話教室で知り合った小森という中年男性が出てくる。短いが重要な役割を果たす小森を役所広司が演じている。教室での名前はトム。節子演じる寺島しのぶ役所広司が、へたくそな英語で会話するシーンは笑ってしまう名場面である。

 

この男性が最後にとった行動は常識を少し外しているのだが、それは小森の行動なのか、それともトムなのか。それとも…。

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監督:平栁敦子
主演:寺島しのぶ南果歩役所広司忽那汐里ジョシュ・ハートネット
日本・アメリカ  2017 / 95分

公式サイト

http://oh-lucy.com/