映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

万引き家族

f:id:mikanpro:20180705220658j:plain

スーパーに入ってくる親子。互いに合図しながら店員の目を盗み、息子の方がかばんに商品を入れてゆく。うまくいくと帰りに商店街で温かなコロッケを買う。寒い時期の物語だ。ふと見るとアパートのベランダに凍えるように女の子が座っている。昨日も見たと父親が言う。

 

「コロッケ食べる?」

 

物であふれかえる居間に家族が大勢。息子の祥太はカップラーメンにコロッケを入れて食べている。こたつを囲んでうどんのようなものを食べているのは、お婆さんと、娘?さっきの女の子も座っている。よく見ると腕にあざが、服をめくると体中にあざがある。

 

「食べさせたら返してきなよ」

 

と嫁が言う。

 

「外寒いんだよな」

 

と答えるが、結局2人で返しにゆく。しかしアパートの傍まで来ると部屋の中から夫婦で罵り合う声が聞こえる。

 

「産みたくて産んだんじゃないんだから」

 

すると嫁の方が返すことをやめる。そして家族が一人増える。    

                       f:id:mikanpro:20180705220732j:plain

監督は是枝裕和。この作品で今年のカンヌ映画祭パルム・ドールを受賞した。

 

「僕がへそ曲がりだからかもしれませんが、特に震災以降、世間で家族の絆が連呼されることに居心地の悪さを感じていました。絆って何だろうなと。だから犯罪でつながった家族を描くことによって、あらためて絆について考えてみたいと思いました。」

 

2か月後、テレビのニュースで新しく家族になった女の子、じゅりが映し出される。行方不明だという。両親は「親戚の家に預けた」と嘘をついていた。帰るかここに残るか、女の子に問う。

 

「自分で選んだ方が強いんじゃないかな。…絆っていうの?」

f:id:mikanpro:20180705220829j:plain

だがこの家族はもろい。仮の住まいみたいにゴタゴタと落ち着かない居間。そこでは、暖かな笑いにつつまれながら、それぞれがそれぞれの事情で浮足立っている。やがて、この家族の誰にも血のつながりのないことが分かってくる。ある日祥太は、近くの駄菓子屋で万引きをしようとして主人に言われる。

 

「妹にはさせんなよ、これ」

 

この一言に祥太は衝撃を受ける。やがてその余波が押し寄せ、「犯罪でつながった」家族の「絆」がほつれてゆく…。                     

                      f:id:mikanpro:20180705220928j:plain

児童虐待、年金不正受給、さまざまな社会の問題がてんこ盛りのような映画だが、この作品は決してテーマに収斂していかない。テーマを内包させながらテーマを描く事を避けているような印象すらある。ただおそらくはそのために、人間が誰しも社会の中で生きていながら個別の生を生きているという当たり前のことを思い出させる。

 

最も印象に残るのは父親の治だ。演じるリリー・フランキーは監督との事前の話で、決して成長しない男を演じてくれと言われたという。しかし、息子に嘘をつくことをやめ、息子に謝り、父親であることをやめた時、この父親は成長する。

 

「おとうちゃん、もとのおじさんに戻るわ」

 

こんなセリフを弱い男は言わない。映画には映し出されないのだが、息子のバスを追いかけて走る治の姿が、いつまでも脳裏に明滅され続ける。

 

監督・脚本・編集:是枝裕和
主演:リリー・フランキー安藤サクラ松岡茉優樹木希林、城桧吏、佐々木みゆ
日本  2018 / 120分

公式サイト

http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/