映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

2017-01-01から1年間の記事一覧

ルージュの手紙

女性のいきむ声。助産婦の励ます声。生まれたばかりの赤ちゃんを取り出し、白く濡れた小さな体を母親の手のひらに渡す。赤ちゃんのかすかな泣き声。母親の静かなほほ笑み。人が誕生するために発するいくつもの声が生の温かみを伝える。 フランスのとある田舎…

否定と肯定

1994年、アメリカジョージア州。「ホロコーストの真実」を書いた歴史学者デボラ・E・リップシュタットの講演が行われている。そこに乗り込んできたのが、ホロコースト否定論者のデヴィッド・アーヴィングだ。本の副題からして乗り込んできそうだ。「大量虐殺…

希望のかなた

フィンランドの港町。岸壁に打ち付けるたぷたぷという音が、潮のにおいを感じさせる。運ばれてくるのは石炭。真っ黒な石炭の中からひょいと、大きな目をした男が顔を出す。男は町でシャワーを浴び、警察署に出向く。難民申請するためだ。 この男カーリドはシ…

ギフテッド

フロリダ。小学校1年のクラス。3+3なんてばかばかしい。6に決まってる、と偉そうに言う少女。カチンときた先生は次々に問題を出すが、少女は3ケタの掛け算まですべて答えてしまう。 「天才じゃないか?」 驚いた先生は、保護者のフランクに「この子には…

我は神なり

韓国の片田舎。やがてダムができて村は水没する運命にある。そんな村に、嫌われ者のキム・インチョルが数年ぶりに帰って来る。賭場や酒場、行く先々で面倒を起こす。高校生の娘が大学の学費にと貯めていた貯金にも手を付ける。ある時、飲み屋で喧嘩し殴られ…

We Love Television?

深夜の住宅街。車の中である男の帰宅を待つ。帰ってきたのは欽ちゃん、萩本欽一だ。待っていた金髪の中年男は「大将!」と声をかける。驚いて振り向く欽ちゃん。 「もう一回視聴率30%の番組を作りましょう!」 というと、 「うわぁ、こんなにうれしい話をす…

サーミの血

妹の葬儀に出席を拒む老婆。息子に促されてしぶしぶ出かけるが、故郷に宿泊することはかたくなに拒む。老婆の名前はクリスティーナ。しかし、本名ではない。名前を捨て、故郷を捨てたのだ。老婆は、窓越しに見えるなだらかな丘陵を見つめながら過去を回想す…

ポルト

ポルトガルの港町、ポルト。その日暮らしの青年ジェイクは、アルバイト先の発掘現場で、ひとりの女性とまなざしを交わす。考古学を学ぶ留学生の女性マティだ。その後不思議なことに、帰りの駅のホームで、入ったカフェで、ふたりはお互いを見出すことになる…

わたしたち

ドッチボールのチームを分けるためにじゃんけんをする。勝った方が味方を選ぶ。カメラはある一人の女の子の表情をとらえ続ける。いつ自分の名前が呼ばれるか、不安な面持ちだ。呼ばれないと参加もできない。じゃんけんの声と他の子の名前が次々に聞こえる。…

三度目の殺人

暗い川の岸辺にふらふらと歩く男。うしろから歩く男が不意にスパナを振り下ろす。顔にわずかな返り血を浴びた男は横たわった死体に火をつける。見下ろす顔が炎の照り返しに明るんで見える。今男は殺人を犯したのだ、とそう見える。普通に考えれば。 男は三隅…

ダンケルク

1940年5月、フランス北部の港町ダンケルク。英軍の兵士が町中をさまよううち、空からビラが降って来る。ダンケルクを包囲したというドイツ軍のビラだ。直後に銃撃。逃げ惑う兵士が海岸に出ると、数千もの連合軍兵士が砂浜を埋めていた。追い詰められた敗残兵…

幼な子われらに生まれ

モザイクに色分けされた画面。その上を、人の足が踏みつけてゆく。色分けされた地面は遊園地の入り口だ。父と娘が手をつなぎ入ってゆく。楽しげに遊ぶ二人。よくあるシチュエーションなので、離婚した父親が、別に暮らす娘と定期的に会う日だと分かる。それ…

ギフト 僕がきみに残せるもの

カメラに向かって語りかける男。背後にベビーベッドが見える。 「6週間後 あのベッドに きみがやって来る このビデオを撮るのは僕がどんな人間か きみ分かってもらうため できるうちに たくさん僕の姿を残しておくためだ」 男は元アメリカンフットボールのス…

静かなる情熱 エミリ・ディキンスン

19世紀半ばのアメリカ。マサチューセッツ州の女子学校で、信仰を強要する教えに反発し、自らの心にのみ神を問う少女がいた。エミリ・ディキンスン。のちに現代アメリカを代表する詩人となる。 このひとは詩人だった ごく普通の意味から 驚くべき感情を蒸留し…

彼女の人生は間違いじゃない

薄もやの桜並木の向こうからヘッドランプが近づいてくる。やがて車が現れると、防護服に身を包んだ人たちが降りてくる。原発関係の作業員のようだ。そこでカットが切り替わる。どこかの町の空撮。小さな部屋で目覚める女性。冷蔵庫から水を飲むと、炊けたば…

裁き

インド、ムンバイ。小さな部屋で子どもたちに地理を教えている白鬚の男。ナーラーヤン・カンブレ、65歳。時間が来ると町を横切って、イベント会場に向かう。そこではみなが待ちかねたように迎え、カンブレはステージに立って歌う。社会問題を訴える歌だ。と…

ハクソー・リッジ

アメリカ・ヴァージニア州。野山を駆け巡る2人の少年。仲のいい兄弟。20世紀初めの情景。飲んだくれの父親の前で取っ組み合いのケンカ。止める母親。少年デズモンドは落ちていたレンガで弟を殴ってしまう。気を失い倒れこむ弟。「死んでしまうかもしれない……

セールスマン

暗闇にうかびあがるベッド。照明を移動させる音。次にソファ。そして正面に派手なネオン看板。これは演劇の舞台だ。しかし人はいない。 一転して叫び声。ドヤドヤと階段を駆け下る音。アパートが倒壊しそうだという。これは現実だ。主人公らしき男が、助けの…

残像

ポーランド。なだらかな草原で絵を描く学生たち。そこにひとりの女学生が訪ねてくる。 「ストゥシェミンスキ教授は?」 「あそこにいますよ」 指さす方を見ると、丘の上に松葉杖をついた初老の男がいる。 「見ててごらんなさい」 男は斜面を寝転がりながら降…

ある会議室。モニターを見ながら映像を言葉にして語る女性、尾崎美佐子。目の見えない人に映画を楽しんでもらうための音声ガイドだ。映画が終わると、その場にいた視覚障がいを持つ人たちが、ガイドの内容について意見を言う。目が見えない立場で、映画を楽…

夜空はいつでも最高密度の青色だ

青森だったか、在来線の列車の窓から夕暮れの空を眺めていた。白い雪原の上の空はよく晴れ渡り、青色は時間がたつにつれてどんどん濃くなってゆく。このタイトルを見て思い出したのはその光景だった。青と黒のグラデーションはとても幻想的だったが、駅に着…

マンチェスター・バイ・ザ・シー

ボストン郊外。アパートの玄関先で雪かきをしている男。名前はリー。アパートの便利屋で、下水管の詰まりや浴室の水漏れを修理する。仕事を黙々とこなすが愛想が悪い。気に入らないことがあると住民を口汚く罵っては苦情がくる。酒を飲んでは喧嘩。同じ毎日…

草原の河

チベット。標高3000メートルを超える高地に、羊を放牧して暮らす人々がいる。まだ春浅い日に、グルの一家は村を出て放牧のためのキャンプ地に移り住んだ。乾いた風が吹きつのり、強い日差しが肌を灼く。時折降る雪まじりの雨。家族は妻のルクドルと6歳の娘ヤ…

ぼくと魔法の言葉たち

アメリカ、マサチューセッツ州。プライベートなホームビデオが映し出される。ありふれた親子。しかし…。 3歳になる頃 オーウェンは突然消えた 自閉症だと医者は言った 一生話せないかもしれない、と医者は続ける。失意の家族。しかし転機は6歳の時に訪れる。…

はじまりへの旅

アメリカ北西部。鬱蒼とした森の中に7人の家族が暮らしている。父親と、高校生くらいの長男をはじめに男女6人の子ども。鹿を狩り解体して食べ、夜は読書。そして音楽。昼は訓練と称して山道を走り、格闘術を覚え、ロッククライミング。すべて父親のベンが指…

ムーンライト

マイアミ。麻薬地区と呼ばれる一角。瓦礫のようなアパートで、売人のファンはある男の子を見つける。女の子のような繊細な雰囲気をもつその子は、仲間からのいじめにあい、その場所に逃げ込んでいたのだ。ほとんど何も話さずうつむきがちな男の子。名前はシ…

汚れたミルク あるセールスマンの告発

回想は自らの結婚式で始まる。パキスタンの下町。自宅に花嫁を迎えたアヤンは、2階の部屋から隣家に声をかける。窓越しに隣家のテレビでインド映画を見るのだ。パキスタンの庶民の暮らしなのだろう。窓の前に二人並ぶ姿がなんとも慎ましい。 アヤンの仕事は…

彼らが本気で編むときは、

小さなアパートの一室、洗濯物をたたみ終わると、テーブルに置いてあるコンビニおにぎりを食べる女の子。11歳のトモ。夜中に帰ってくる母親は酔って吐きながら眠ってしまう。いつものことなのか、寝起きの母親を残して学校に行く。しかしやがて母親は帰って…

海は燃えている 

地中海。イタリア最南端の島、ランペドゥーサ島。海岸沿いの松の木が低い枝を四方に長く伸ばしている。11歳の少年サムエレは枝の錯綜する頭上に小鳥を探している。やがて小さな枝を折るとナイフで削り始める。パチンコを作るのだ。 サムエレは友だちにパチン…

ブラインド・マッサージ

中国、南京。繁盛するマッサージ院にある日、恋人を連れた王(ワン)がやってくる。院長と幼なじみの王はここで働くため、深圳からやってきたのだ。寮で寝泊まりしながら働くマッサージ師はすべて盲人。王とその恋人、孔(コン)の出現は、このマッサージ院…