映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

日本映画

ある会議室。モニターを見ながら映像を言葉にして語る女性、尾崎美佐子。目の見えない人に映画を楽しんでもらうための音声ガイドだ。映画が終わると、その場にいた視覚障がいを持つ人たちが、ガイドの内容について意見を言う。目が見えない立場で、映画を楽…

夜空はいつでも最高密度の青色だ

青森だったか、在来線の列車の窓から夕暮れの空を眺めていた。白い雪原の上の空はよく晴れ渡り、青色は時間がたつにつれてどんどん濃くなってゆく。このタイトルを見て思い出したのはその光景だった。青と黒のグラデーションはとても幻想的だったが、駅に着…

彼らが本気で編むときは、

小さなアパートの一室、洗濯物をたたみ終わると、テーブルに置いてあるコンビニおにぎりを食べる女の子。11歳のトモ。夜中に帰ってくる母親は酔って吐きながら眠ってしまう。いつものことなのか、寝起きの母親を残して学校に行く。しかしやがて母親は帰って…

沈黙 -サイレンス-

長崎、雲仙。熱湯の温泉を体に浴びせられる外国人たち。肌が赤く灼け呻き声が地に満ち、地元で地獄と呼ばれる風景がまさにそこにある。江戸のはじめ、キリシタン禁制の時代に日本に来た宣教師たちだ。 多くの宣教師は拷問の末殉教するか、または棄教した。そ…

聖の青春

満開の桜の公園の片隅にゴミに交じって一人の男が倒れている。棋士、村山聖25歳。この時七段。誰かに抱えてもらわないと対局場にも行けぬほどに体が弱ってしまっている。座っているのもやっと。しかし将棋を指すという情熱が彼の体を支えている。 村山聖(さ…

この世界の片隅に

とても漫画チックな?絵柄にも関わらず、ひとりの女性の半生を確かに見た、そんなどっしりとした印象がある。 昭和19年、広島市内から呉に嫁いできたすず、18歳。段々畑の中腹にあるその家からは、呉の軍港が見下ろせる。夫は海軍の書記官。やさしい義理の両…

永い言い訳

妻に髪を切られながら毒づく中年男が映し出される。小説家の津村啓。彼は、妻が客の前で本名の「さちおくん」と呼ぶのが気に入らない。「面子が立たない」という。彼の本名は、衣笠幸夫。広島カープ往年の名選手衣笠祥雄と同姓同名だ。それが長く彼の人生に…

淵に立つ

止め忘れたオルガンのメトロノームが感情をざらつかせる。時の流れは味方にならない、と映画は最初に告げている。 山形のとある町で零細な工場を営む鈴岡のもとに、古い友人が訪ねてくる。刑務所から出てきたばかりの八坂だ。二人は何か因縁があるらしくその…

レッドタートル ある島の物語

暴風雨に会い、浜に打ち上げられた男。気づくとそこは無人島だった。男は竹を刈って筏を作り、島を出ようと試みる。しかし、何者かが邪魔をして何度も島に逆戻りしてしまう。ある時、その犯人が大きなウミガメだと気づいた男は、怒って浜に上がったウミガメ…

怒り

八王子の住宅街。ある一軒家に夫婦の惨殺死体が見つかる。壁には犯人が血で書いたと思われる「怒」の文字が…。1年後、犯人は整形を繰り返しながら逃亡を続け、日本の各地で、犯人の特徴を持つ男たちが現れる。 千葉の漁師町に住み着いた素性の知れない男。東…

ふきげんな過去

不機嫌な顔をした若い女性が大写しになる。画面に見えないところから若い男が話しかける。「居ないだろうワニなんて」。女性はワニがいないか運河を見下ろしているらしい。行きたいところないの?と男が聞く。女がイライラして答える。 「ここじゃない世界」…

海よりもまだ深く

駅の階段を降りた先にある立ち食いそば屋。良太は春菊天そばを注文する。美味そうである。西武線清瀬駅。旭が丘団地まではここからバスに乗る。年老いた母親が一人で暮らしているのだ。この日は亡くなった父親の遺品に金目の物を探しに来た。「確か掛け軸が…

リップヴァンウィンクルの花嫁

雑踏の中、一人の女性が男性を待っている。初めて会う相手のようだ。スマホでお互いの位置を確認しあう。ようやく会えると男性がカフェに誘う。女性がついてゆく。黒木華である。 黒木華を見るために映画館に行った。渋谷のユーロスペースは休日のせいか、満…

恋人たち

ひとりの若者が誰かに語り続ける。何かを訴えるように、必死に―。 妻と結婚する直前の思い出だ。何度も何度も反芻したであろう記憶。禁煙を約束したが、守られずに吸ってしまった男を、妻は「徐々にやめていけるといいね」と言ってくれた。しかしやがて彼女…

杉原千畝

昭和30年。日本の外務省に一人の外国人が訪ねてくる。「スギハラセンポ」という役人がいるはずだ、と。応対した役人はなぜか「そんな人間はいない」という。外国人は粘る。「多くの人間が彼に命を救われたのだ」と。映画はここから時間をさかのぼり、リトア…

母と暮せば

1945年8月9日。プルトニウム爆弾を積んだB29が長崎の上空に到着する。最初は雲に覆われていたが、やがて視界が晴れて町を見渡せるようになる。爆弾投下。11時02分。爆心地に近い長崎医科大学では、多くの学生が授業を受けていた。青白い閃光、溶けてゆくイ…

FOUJITA

1920年代のパリ。一人の日本人画家が、画壇を席巻していた。藤田嗣治である。藤田は乳白色の肌の色を独自に考案し、これまで見たこともないような新たな美を創造した。一方で、夜な夜な画家仲間とどんちゃん騒ぎを繰り返し、フーフーと呼ばれ親しまれたのも…

ボクは坊さん。

四国八十八ヶ所霊場、第57番札所、栄福寺。住職の祖父が突然亡くなり、跡を継いだ24歳の青年、光円が主人公。現代に生きる若者が僧侶という仕事を選択したとき、いったいどんな世界が見えてくるのか。坊主専用バリカンや、般若心経の着信音、南無スターズと…

岸辺の旅

ひとり暮らしのピアノ教師、瑞希がひとり「しらたま」を作っている。何か目に見えぬものが背後にいると感じる。見ると3年間失踪していた夫がそこに立っている。瑞希は驚くでもなく言う。「おかえりなさい」と。しかし夫は、実は自分は「死んでいる」という。…

この国の空

暗闇に雨の音がする。雨の音に交じってブラームスのバイオリンが聴こえる。隣家の男が弾いているのだ。戦争末期の東京、杉並。里子は父親を病気で亡くし、母親と二人で暮らしている。静かな映画だ。民家は焼かれ、子どもたちは疎開、静けさの中で日常が繰り…

野火

「到るところに屍体があった。生々しい血と臓腑が、雨あがりの陽光を受けて光った。ちぎれた腕や足が、人形の部分のように、草の中にころがっていた。生きて動くものは蠅だけであった。」(大岡昇平「野火」) たとえば渋谷の雑踏ですれ違う無数の人々に、ひ…

バケモノの子

9歳の夏、俺はひとりぼっちだった-。 荒んだ眼をした男の子が渋谷の繁華街をうろつく。母親を交通事故で亡くし、親せきに引き取られるのを拒んで徘徊しているのだ。自分を取り巻くあらゆるものに憎しみの目を向けながら。大嫌いだ、大嫌いだ、大嫌いだ、胸…

きみはいい子

人間はもともと邪悪なものなのだろうか。それとも人間はもともと善きものなのだろうか。 仏壇にお茶をあげ、自分もゆっくりと飲む。お婆さんがひとり、縁側で桜の花びらが舞い落ちるのに気付く。6月だというのに。玄関の呼び鈴に出てみると、若い男性がひた…

海街diary

わたしの両親はいわゆる「不倫」だった―。原作漫画のモノローグで語られるこの言葉が、主人公浅野すずの心に澱のようにたまっている。 浅野すず、14歳。仙台で生まれる。母親を急な病気で亡くし、父親はその後再婚して山形の小さな温泉街に。しかし父親も間…

あん

桜の花びらが舞う並木の通りを少し入ると、そこに小さなどら焼き屋がある。客はそれほどありそうもない。花びらが入っていたと、なじみの中学生たちになじられる様な、頼りない中年男が店主だ。ある時76歳だという老婆が、バイト募集の張り紙を見てやってく…