映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

帰ってきたヒトラー

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「あの時と同じ…
    最初はみな笑っていたわ」

 

あのヒトラーが2014年のドイツにタイムスリップした。ちょび髭で軍服姿、おかしな言動は物まね芸人と間違われ、すぐにテレビ出演することに。人の心を鷲づかみにする話術はお手の物のヒトラーは、一躍人気者になってゆく。やがて一緒に活動を続けていたディレクターは、残された映像から彼が本物のヒトラーだと気づくのだが…。

 

この映画の独特なところは、物語の中に新たに撮影したドキュメント映像を織り込んでいるところだ。劇中のヒトラーはテレビディレクターに連れられ、ドイツ中を回って人々の話を聞いて歩く。が、これがドキュメントなのである。人々はヒトラーの扮装をした役者(オリヴァー・マスッチ)を受け入れ、本音をぶつけてくる。外国人(移民)が嫌いな中年女性、自分を引っ張ってくれる強い指導者を求める若者…。

 

監督のデヴィッド・ヴェンド氏は、


「あれほど多くの人々が公然と外国人に反対し、民主主義に対して激しい怒りを露わにするとは思ってもいなかった。」


という。

 

「ドイツ全土にわたり僕たちが撮影した多くの人々が、ヒトラーと同じ考えを持っていることにとても驚いている。つまりドイツ国民は絶えず話し合う民主主義的な社会よりも、再び強い指導者を必要としているということだ。」
           

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オリヴァー・マスッチ演じるヒトラーは、他者に対する慈愛と自分に対する自信に満ちているように見える。実際のヒトラーはどうだったのか。ただ当時のドイツ人が熱狂したのだから、いくばくかそういう風に見える要素があったに違いない。そして、現代のヒトラーは、大衆の心をつかむためなら道化と思われてもかまわないと語り、進んでその役を演じようとするのだ。彼の目指すところが何なのか誰も知らないまま、人々は再び彼の手中に落ちてゆく。

 

3年前日本の麻生太郎副総理は、「ワイマール憲法はいつのまにかナチス憲法変わっていた、あの手口に学んだらどうか」と述べた。(後に発言を撤回したが、こういう人が今も日本の副総理なのだ。)まさしく現代のヒトラーはそのように動いている。

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この映画は絶対悪のヒトラーを相対化し、人間的な側面に光をあてた。その事で賛否両論あるようだが、そのような視点に立たなければ、現代のヒトラーを見破ることができないということなのだろう。

 

ヒトラーを悪のモンスターとして、民衆を無力化する悪魔として描けば、実際に彼が行った事実やホロコーストに対する責任から目をそらすことになるし、民衆が負うべき責任を軽んじることにもつながる。ユダヤ人の迫害を可能にしたのはドイツ国民だ。自ら進んでヒトラーに投票する民衆がいなければ、彼が政権を握ることはなかったはずだから。」
(デヴィッド・ヴェンド監督)

 

なぜ人々は自分を選んだのか。ヒトラーはテレビディレクターにそう問いかける。そして自分で答える。

 

「それは、皆が私と同じ考えだからだ。…倫理的にも。」    

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映画の後半、今の時代に根を下ろした排外主義的なムードの実写映像がフラッシュで流れる。その映像を背景に現代のヒトラーが静かにつぶやく。

 

「好機到来だ」

 

監督:デヴィッド・ヴェンド
原作:ティムール・ヴェルメシュ「帰ってきたヒトラー」(河出文庫
主演:オリヴァー・マスッチ
ドイツ映画 2015 / 116分

 

公式サイト

http://gaga.ne.jp/hitlerisback/