映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

ブラインド・マッサージ

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中国、南京。繁盛するマッサージ院にある日、恋人を連れた王(ワン)がやってくる。院長と幼なじみの王はここで働くため、深圳からやってきたのだ。寮で寝泊まりしながら働くマッサージ師はすべて盲人。王とその恋人、孔(コン)の出現は、このマッサージ院にちょっとした波風を立てる。

 

若い小馬(シャオマー)が、ひょんなことから孔に触れ、女性の匂いに目覚めるのだ。ことあるごとに孔に触れようとする小馬。心配した先輩が、小馬を風俗店に連れてゆくのだが…。

 

この映画は、あるマッサージ院で働く盲人たちの、それぞれの恋愛の断片を描いた群像劇だ。たとえば客から美人と評判の都紅(ドゥホン)。客の声を何度も耳にする院長の沙(シャー)は、都紅の“見えない”美しさに惹かれてゆく。ある時都紅に近づき、その思いを告げる。

                      

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「目が見えないことで、今まで自分が惨めだと感じたことはない。しかし今、君の美しさを知ることができない自分を惨めに感じる。知りたいんだ。君が持つ“美”を。」

 

沙は都紅の顔を、手のひらと指で撫でてゆく。“美”を指先で捕まえようと。しかし沙が触れている都紅の肌、顔の輪郭は、はたして都紅の“美”なのか。目に見える美しさは、見えないものにとって一体どんな意味があるのか。都紅はこう言い放つ。

 

「あなたは私を愛していない。目が見えない女ほど、愛を見抜くの。」

 

監督は中国の俊英、ロウ・イエ

「(この作品は)現実の世界とのかかわりを暗喩(メタファー)として描いた作品だと言われることがありますが、目が見えない世界というのは、暗喩(メタファー)の世界なんかよりも奥が深くて、すごい世界ですよ。」

 

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先輩に連れられた風俗店で、マンを紹介された小馬。何度も通ううちそれはやがて恋愛感情に変わる。頻繁に通いすぎて警察の摘発の巻き添えを食う。ほかの客がいると知って部屋に乗り込み逆に散々に殴られる。とにかく小馬という男は一途だが、マンも次第に惹かれてゆき…。

 

作品中に盲人の声を代弁するようなナレーションが時折入る。そのなかに、小馬とマンのことを語るこういう言葉があった。

 

「運命は目に見えないから、盲人のほうが敏感にそれを感じ取る」

                      

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そして別のところでこういう言葉も。

 

「盲人にとって健常者は別の種類の動物だ」

 

目が見えないことは欠落ではない。この世には2種類の人間がいるのだ。目が見えない人間と目が見える人間。それぞれがまったく違う世界を生きている。そのことの生きづらさと、裏返しの誇り。映画はそれらを容赦なく映し出し、びりびりと見るものの感情を波立たせる。

 

監督:ロウ・イエ
原作:『ブラインド・マッサージ』ビー・フェイユイ著 白水社
主演:ホアン・シュエン、ホアン・ルー、メイ・ティンほか
中国・フランス 2014/115分

 

公式サイト

http://www.uplink.co.jp/blind/