映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

ハクソー・リッジ

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アメリカ・ヴァージニア州。野山を駆け巡る2人の少年。仲のいい兄弟。20世紀初めの情景。飲んだくれの父親の前で取っ組み合いのケンカ。止める母親。少年デズモンドは落ちていたレンガで弟を殴ってしまう。気を失い倒れこむ弟。「死んでしまうかもしれない…」自分がしたことにショックを受けたデズモンドは、部屋に飾られていた「汝殺すなかれ」の文字を呆然と見つめ続ける。

 

成長したデズモンドは、日本の真珠湾攻撃に衝撃を受け、陸軍に志願する。しかし、訓練の際、「信仰のため武器に触れることは出来ない」と銃を取ることを拒否したことから、上官や仲間から様々な嫌がらせを受ける。

 

「自分は武器を持たずに衛生兵として戦場に行き、仲間を救いたい」

 

そう主張するが、上官は「銃を取らない人間は信用できない」と除隊を宣告する…。    

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これは沖縄戦で武器を持たずに最前線に赴き、衛生兵として75人の負傷兵を救助した実在の人物の物語だ。監督は10年ぶりにメガホンをとった「ブレイブハート」のメル・ギブソン

 

「デズモンドは自らの主義と信仰に反するものとして、暴力を忌み嫌っていた。だが彼は、第二次世界大戦において衛生兵として祖国に奉仕したいと考えていた。最悪の戦場に武器も持たずに赴こうだなんて、いったい誰が考えるだろう?そのことが、僕の心をとらえて放さない。」

 

実在するデズモンド・ドスは1950年、“良心的兵役拒否者”として最初の名誉勲章を授かった。映画化の話はそのころからあったが、実現までに50年以上を要した。デズモンドが静かな生活を送ることを選んだからだという。 

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見ていて分かりづらいとすれば、デズモンドが“良心的兵役拒否者”にあたるということだろう。彼は兵役を拒否しているわけではない。むしろ志願しているのだ。しかし銃を取ることは拒否した。つまり戦争には参加したいが、戦うことは拒否したい、というのだ。上官が「?」となるのも無理はない。

 

デズモンドはどんなに過酷な目に会っても、「汝殺すなかれ」の信念を曲げなかった。しかし、それほど強い信念があるなら戦争そのものに反対した方がいいのでは、とも思ってしまう。このあたり、人にはそれぞれ役割があるとしか言いようがない。

 

おそらく彼の認識の中では、戦わなければより多くの同胞が敵に殺される。そのため戦争は避けることは出来ないし、敵を殺さなければならない。自分もその行為に参加しなければならない。しかし殺す役目は自分ではない、ということなのだろう。 

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戦争を肯定しながら戦いを否定する、というアクロバットを成し遂げるために、デズモンドは死を恐れず、獅子奮迅の活躍で仲間を救出し続けるしかなかった。いやそれほど難しい話ではないのかもしれない。常に自分に出来ることは何かを問い、どのような場面にあってもその答えを実行し続けた、ひとりの男の物語なのだ。

 

デズモンドを徹底的にしごく軍曹の役を演じたヴィンス・ヴォーンの言葉が、この映画の核心をついている。

 

「デズモンドは自分自身に正直に生き、信念を貫き通そうとしていた。もし誰かが、自分の信念に基づいた行動をして、その結果を潔く受け入れようという態度を見せたとしたら、その人物を尊敬せずにはいられないはずだ。」

 

監督:メル・ギブソン
主演:アンドリュー・ガーフィールドテリーサ・パーマーヴィンス・ヴォーン
アメリカ。オーストラリア 2016 / 139分
 
公式サイト

http://hacksawridge.jp/