映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

ギフト 僕がきみに残せるもの

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カメラに向かって語りかける男。背後にベビーベッドが見える。

 

「6週間後 あのベッドに きみがやって来る

このビデオを撮るのは僕がどんな人間か きみ分かってもらうため

できるうちに たくさん僕の姿を残しておくためだ」

 

男は元アメリカンフットボールのスター選手。スティーヴ・グリーソン。引退後、筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断された。そしてその6週間後、妻ミシェルの妊娠が分かる。余命2~5年と言われる難病だ。もしかすると子どもに話しかけることが出来ないかもしれない。スティーヴは1日5分間、生まれてくる子どものために、ビデオメッセージを撮り続けることにした。それがこのドキュメンタリー映画の元になった。

 

スティーヴは少しずつ運動神経が損なわれてゆく。歩きがぎこちなくなり、食事が困難になる。やがて話すことも、呼吸をすることも出来なくなってゆく。友人二人は、その様子を介護のかたわら撮り続けていた。ここまで撮影するのかというくらい、その日常を撮り続け、おかげスティーヴが何に苦しみ喜び涙するのかが痛いほどよくわかることになった。撮影時間は1500時間。それをドキュメンタリー作家のクレイ・トゥイールが111分に編集した。

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スティーヴは息子にリヴァース(川)という名前を付ける。

 

「川こそが火の源なんだ。火は木を燃料にして燃え、木を潤す水は川からくる。つまり川は火の燃料。僕という火にとって、君は川だ。」

 

普通は父親が息子の源だというイメージだが、スティーヴは息子が自分の源だという考え方をする。そして病気を自覚した彼は、これまでギクシャクとしていた自分の父親との関係を修復しようと試み始めるのだ。監督のクレイ・トゥイールは語っている。

 

「最初はこの映画は、主に悲劇的な環境で人生の目的を見つける男の物語になると思っていた。…僕が気づいていなかったのは、スティーヴと父親の関係で、その関係がスティーヴが彼の息子に残す教訓にも反映されていくところまで話が広がっていくということだった。世代を超えた父と息子の物語が現れて、驚かされた。」

 

スティーヴの父親はとても厳しい人だった。そして自分の考えを相手に押し付けようとする人らしい。映画では信仰を巡る父と子の対立が何度も描かれる。

 

「父さんの言うように信仰しないからこうなったと言いたいの?」

 

「そんなことはない。…まったく違う。」

 

そしてスティーヴはある時、泣きながら訴える。

 

「僕の心と神との関係を、無理に理解しようとしないでほしい」

 

泣くことも思うようにできないスティーヴが、それでも父親にすがって泣く姿が胸を打つ。ビデオメッセージでは、息子のリヴァースにこう語る。

 

「君はやがて僕と違う意見を持つようになる。それが楽しみだ。実際にそうなったらイラつくだろうけど。」

 

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映画の終盤、スティーヴが父親に正面から問いかける場面がある。

 

「もしやり直せるなら、どういう父親になりたいの?」

 

「もっと優しい父親に…」

 

「もう十分優しいよ」

 

その時スティーヴが少し笑ったような顔をしていたのがとても印象的だ。

 

いよいよ人工呼吸器を装着しなければ呼吸がままならないとなった時、彼はなお生きる道を選ぶ。24時間介護が必要で、アメリカでは保険がきかず、5%の人しか選ばない道だ。しかしスティーヴのモットーは、「白旗は掲げない」ということだ。苦しみながらそれでも延命を選択する。その力の源は、息子。そして同時に父親ではないかと思う。父、自分、息子、世代を通じてその中を滔々と流れ続ける「川」がある。それが生命だ。

 

「僕がきみを愛するくらい、僕を愛して欲しいな。無理かな。でも、君の息子たちは同じくらい愛して欲しい。」

 

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監督:クレイ・トゥイール

編集:クレイ・トゥイール、ブライアン・パルマ

撮影:タイ・ミントン=スモール、デヴィッド・リー

アメリカ 2016 / 111分
 
公式サイト  

http://www.transformer.co.jp/m/gift/