映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

ダンケルク

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1940年5月、フランス北部の港町ダンケルク。英軍の兵士が町中をさまよううち、空からビラが降って来る。ダンケルクを包囲したというドイツ軍のビラだ。直後に銃撃。逃げ惑う兵士が海岸に出ると、数千もの連合軍兵士が砂浜を埋めていた。追い詰められた敗残兵の群れだ。彼らはここから脱出し、海峡をイギリスに渡って帰るのを待っているのだ。

 

映画はまずその無名の英軍兵士の目線で語られる。彼は何とか帰還船に乗り込もうと画策する。必死の思いで掃海艇に乗り込むが、今度はUボートの魚雷が襲ってくる。命中。沈没してゆく掃海艇。果たして彼は無事に帰還できるのか…。

 

監督は「メメント」、「インターステラー」のクリストファー・ノーラン 

「『ダンケルク』は時間との戦いを描くサスペンスだと、僕は捉えている。人々が生き残ろうとする姿を描くスリラーだ。彼らは9日間であそこを脱出しなければならなかった。敵はすぐ近くにいて、その時間が迫るたびに、生存のチャンスは減っていくのさ」          

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実はダンケルクに追い詰められた英仏連合軍は40万という。これだけの数の兵士をイギリスに帰すために、海軍は本国で民間船に呼びかけた。それに応じた船主たちは生命の危険をかえりみず、ダンケルクへと向かう。

 

映画は、防波堤の兵士たちの1週間、救助船の1日、この帰還作戦を空から援護する空軍パイロットの1時間を、カットバックしながら描いてゆく。

 

「今作の視点と構成を決めるのに、僕はかなりの時間を費やしている。その結果、僕は、3つの違った視点からこの出来事を語ることに決めた。それらは同時に起こってはいるが、それぞれにかかった時間は違う。…それらの話を一緒にし、緊張感をどんどん高めてゆく。普通の映画で言う、いわゆる“サードアクト”(構成上最も盛り上がるところ)を、今作では最初からやりたかったんだ。」(ノーラン監督)

 

撤退を待つ兵士たちは、防波堤にいれば空から攻撃され、船に乗り込めば魚雷に攻撃され、海に放り出される。その臨場感は半端なものではない。こんなところには間違っても来たくない、と思わせる迫力がある。そしてそのような過酷な状況の中で、人間のエゴがむき出しになる。

 

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陸と空と海。監督の言う3つの視点は、単なる視点にとどまらず、戦争における役割によって、それぞれが経験することの違いを浮き彫りにする。救助船の船長は、民間人でありながら戦場に向かう、勇気と節度あるイギリス紳士の理想。ドイツ戦闘機を撃墜する空軍のパイロットは、英雄。そして、撤退を待つ兵士たちは、弱く醜い人間として描かれる。

 

物語の終盤、救助船に助けられ本土に帰った兵士は、人々に罵られるかもしれない不安に怯える。しかし待っていたのは兵士たちへの称賛だった。新聞は撤退作戦の成功を高々と歌い上げる。そして対ドイツ戦争に向けて人々を鼓舞する文章を連ねるのだ。ぼろくずのような帰還兵は、仲間のためにその記事を朗読する。美しい言葉の羅列。しかし、彼らの経験した現実は美しくない。

 

敗残兵の不安、思いもしない称賛。醜い現実、美しい言葉。延々と読み続ける兵士。監督が描きたかった美しいイギリスの心は、美しくない真実の中でほのかに輝く。 

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監督・脚本クリストファー・ノーラン
主演:フィン・ホワイトヘッド、マーク・ライランス
アメリカ 2017 / 106分
 
公式サイト  

http://wwws.warnerbros.co.jp/dunkirk/