映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

ギフテッド

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フロリダ。小学校1年のクラス。3+3なんてばかばかしい。6に決まってる、と偉そうに言う少女。カチンときた先生は次々に問題を出すが、少女は3ケタの掛け算まですべて答えてしまう。

 

「天才じゃないか?」

 

驚いた先生は、保護者のフランクに「この子には特別な才能がある」というが、フランクは単純な暗算方法があるんだと言って取り合わない。しかしこの子、メアリーは確かに天才なのだ。すでに高等数学までマスターしているのだから。ただフランクは特別な教育を施すのでなく、普通の学校で同年代の子どもたちと育った方が幸せだと考えている。

 

まったく知らなかったが、こうした特別な才能のある子どもを「ギフテッド」というらしい。神様から特別な能力を授かった、という意味なのだろうか。メアリーはフランクの姉の子、つまり姪だ。姉は優秀な数学者だったが、メアリーが生まれてすぐ自死してしまう。普通に育てたいというのは姉の遺志でもある。校長からギフテッドのための特別な学校に行っては?と勧められたフランクはこう言い放つ。

 

「ばかになっても、普通に育てば、みんなが喜ぶ」

 

だがフランクは、何がメアリーにとっての幸せか、確信を持つことが出来ない。居酒屋で飲みながら、「最大の恐怖は?」と問われると「メアリーの人生を壊すこと」と答えるのだ。そんな時、メアリーの祖母(つまり自分の母親)が家にやってきて、メアリーは私が育てると言い出すのだが…。     

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                                                                    監督は「アメイジングスパイダーマン」シリーズのマーク・ウェブ。「ギフテッド」の脚本に出会った時のことをこう語っている。

 

「そこには、宇宙船のレーダーには映らない、人間の営みがとても深く描かれていた。ハリウッドの大きなスタジオがシニカルになって、人々を刺激するものだけを作るようになっている一方で、この脚本には人間の持つ小さな情熱を祝福するような感覚があった。それも、とてもリアルなものとしてね。」

 

フランクは海沿いの町でボートの修理をして暮らしている。貧乏なアパート暮らし。家族はメアリーと片目の猫フレッドだ。メアリーの祖母は環境が良くない、とフランクから親権を奪う裁判を起こす。しかしフランクの姉はその母に操られるように生き、最後に自死してしまったのだ。同じようにさせられない、とフランクが思うのは無理もない。

 

数学の専門書にかじりつくメアリーを、無理やり外に連れ出し、海辺で語り合うシーンが美しい。フランクは「何があっても俺たちは一緒だ」と繰り返し告げる。

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私たち凡人は才能のある人たちの活躍を見ることで、生きる勇気や力をもらうことがある。そういう意味で、メアリーがそうした人に育ってもいいのじゃないか、と思う。しかしそこにメアリーの不幸感が前提としてあるならどうだろうか。

 

いろいろな天才たちの例が示すように、才能の開花と幸福とはなかなか両立しない。飛びぬけた才能とは幸福の追求のためにあるのではなく、それを持つ本人を苦しめるためにあるかのようだ。育てる方はそこに悩みが生じ、正解もなく苦しむことになる。
            

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メアリー役のマッケナ・グレイスは11歳。この映画のメッセージについて問われ、なるほどと思わせることを話していた。

 

「結局、ある人の家族が完璧かどうかなんて誰にも言えないってこと。…完璧な家族には、お母さんとお父さん、大きな家にたくさんのお金がなければならないと人は言う。でも、愛と思いやりのある人と暮らしているかぎり、それがその人にとって完璧なんだと思うわ。」

 

完璧を幸福と言い換えてもいい。そしてこう続ける。

 

「だから、ハッピーな気持ちで映画館を出てほしいな。幸せを感じて誰かを抱きしめたくなるような気持ちで。みんなが幸せで、人にはそれぞれ事情があることをわかり合って、人に優しくしなきゃって感じてほしいって思ってるの。」

 

映画は紆余曲折を経てある解答を見出す。もちろん何が正しいかなんてわからない。ただ、マッケナ・グレイスが届ける幸福のイメージは、まさしく「贈り物」として心に刻むことになる。

 

監督:マーク・ウェブ
脚本トム・フリン
主演:クリス・エヴァンス、マッケナ・グレイス
アメリカ 2017/ 102分

公式サイト

http://www.foxmovies-jp.com/gifted/