ステージを終えた男は、倒れこむように車に乗り込み瓶酒をあおる。途中で車を止め、ふと見つけたバーに入ってゆく。男は店員が興奮するほど顔の知られた人気歌手だ。にぎやかな店内で、昼間ウェイトレスをして働く女が、ラヴィアンローズを歌っている。これが二人の出会いである。
深夜スーパーの駐車場で語り合う二人。女は男の話を聞いて即席で歌を口ずさむ。
話を聞かせてよ
心の穴を必死に埋めてきたのね
まだ必要なの?
平気な顔して
つらくない?
まぎれもない才能。男はアレンジして自分の舞台で歌わせる。すぐに注目されスターダムをのし上がってゆく女。しかし男、ジャックは反比例するように酒浸りになり落ちてゆく。セクシーなダンスが気に入らないと、酒を飲んではくだを巻き「醜い」とまで口走る。女、アリーはついにグラミー賞の新人賞にノミネートされるが、その席上で決定的な事件が起こる…。
監督は主演も兼ねたブラッドリー・クーパーで、その見事な歌声も披露している。
「かねてから僕は“愛”に関する物語を作りたかった。どんな人でも感情移入できるものだと思う。恋愛そのものにせよ、失恋にせよ、その高揚感にせよ。恋というのは、人が一番生きている実感を味わうもの。もともと僕は、すべての映画は癒しを与えるものであるべきだと信じているんだ。癒しを最大限に提供する題材に、恋愛以上のものはないと信じている。」
事件の後、ジャックはアルコール依存症治療のため入院する。自分の行動が、アリーの将来もズタズタにしてしまったかもしれない。
見舞いに訪れたアリーは、
「あなた、この後どうするの?帰ってくる?」
と聞く。
「・・・どうしてそんなことを聞く?」
「気にしないで、ただ聞いただけよ。」
「・・・」
「本当にただ聞いただけ」
このさりげない会話が妙にリアリティがあって、映画を見終わった後も何度も反芻してしまった。微妙にすれ違う会話がこの後の二人を暗示している。何気なく聞いた一言が、ジャックの心に一抹の疑念を抱かせる。その疑念が沸点近くになった時、ある男が訪ねてくる…。
アリーは男を最後まで見捨てることをしない。自分の夢のためだとか、ファンのためだとか、興行的なことのためだとか、そういう言い訳を自分にしない。そういうことはやはりなかなかできるものではない。
「愛しすぎている」
とマネージャーは言うが、それとも少し違うような気がする。もう少し根本的な人間の在り方のような。もちろん自分の夢のために男を捨てる選択が悪いわけではない。そういう女性を多くの物語の中で見てきた。そしてそのことを大して不思議とも思わず、賞賛すらしてきたかもしれない。
だが、その賞賛は自分の気持ちに無理を強いていたのかとも思う。アリーの生きざまを見ていると。なぜか気持ちが温かくなる。人間に対する信頼が呼び覚まされる。
演じるレディ・ガガの歌声は素晴らしく、とてつもない力がある。そのせいなのか、これが実話のドラマ化のような印象を与えて、展開の無理があまり気にならない。そしてその歌声だけではなく、アリーの生きてゆく態度が私たちにあたたかな希望を与えてくれる、そんな映画である。
監督・脚本・主演:ブラッドリー・クーパー
主演:レディ・ガガ、サム・エリオット
アメリカ 2018 / 136分
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