映画の冒頭、観客に問いかけるナレーションで始まる。
「何の罪もない兄弟姉妹、両親、子どもたちが殺された、と知ったとき、あなたならどうする?」
ドイツ。郊外の農家にひとりの男が現れる。ホロコーストを生き延びたユダヤ人のマックスだ。家主は猟銃を持って迎える。「なぜ密告した?」と詰め寄るマックスを銃尻で叩きのめし、二度とこの家に近づくな、と言う。
マックスは妻と子を探すため、ユダヤ人の難民キャンプに行くが、そこで妻と子の最期を目撃した女性の話を聞く。自ら穴を掘らされ穴の淵に立たされる。銃弾が無くなるとナイフで、疲れてくると生きたまま。翌朝も土が動いていたと語る。
絶望にあえぐマックスは、難民キャンプに来ていた「ユダヤ旅団」への参加を訴える。「ユダヤ旅団」は、英国軍の指揮下にあったが、密かにナチスの残党を探し出し処刑していたのだ。参加を許され次々に処刑を実行するマックスだったが、ある時「ユダヤ旅団」よりはるかに過激な集団「ナカム」と出会う。「ナカム」は、同胞600万人が殺された復讐として、ドイツ人600万人を殺害する計画をもくろんでいた…。
監督はイスラエルのドロン・パズとヨアヴ・パズ。親しい友人の祖父の経験談と、実際にあった「プランA」と呼ばれる大規模殺害計画の事実をもとにして作った。
「登場人物たちを執筆する際は、ナチスに家族や600万人ものユダヤ人同胞を殺害されたことで、かつては人生を謳歌していた人々が、何百万人もの命を奪うことを願う人間に変わってしまったという事実に重点に描いた。彼らは激怒し絶望した自警団であった一方で、人生に対する情熱に満ちた人間でもあったのだと。」
「ナカム」は、ユダヤ民族の国家を建設しようとする人々にとって危険分子だった。大規模な復讐計画が実行されれば国際社会の理解を得ることが難しくなるからだ。マックスは最初、実行を阻止するスパイとして「ナカム」に潜り込む。
アウシュヴィッツでは、来所する同胞を案内する役割だったマックス。なぜ反旗を翻さなかったのか。「ユダヤ旅団」にいるときそのことを問われ、何も言い返すことが出来なかったが、「ナカム」のリーダー、アッバ・コヴナーを前にしてその心情を吐露する。
「あれからずっと自問自答を続けてきた。なぜ自分は何もしなかったのだろう?」
「ナカム」には、一人息子を亡くし毎晩のように夢でうなされる女性、アンナがいた。アンナもまた悔いを抱えながら生きていた。自分のせいで息子が死んだかもしれない、と。マックスはこのアンナと出会ったことで、「ナカム」の計画に自らのめり込んでいくようになる…。
批評家・編集者の夏目深雪氏によると、犠牲者の子孫(イスラエル人)がナチスやホロコーストをテーマに映画を製作することは珍しいという。背景にさまざまな政治的理由があるようだが、自分たちの歴史を自分たちで再検証しようとする、新たな世代の登場という側面もあるのかもしれない。ちなみに主演のマックス役はアウグスト・ディール。テレンス・マリックの「名もなき生涯」で主役を演じたドイツの俳優であるが。
不条理な悔恨を抱え苦しみながら、復讐へと邁進するマックスとアンナ。やがて計画が進行するにしたがって、ふたりはそれぞれある「選択」をする。それは、この監督たちが映画を作るにあたって、関係者へのリサーチを繰り返しながら行きつき、おそらく言わずにいられなかったメッセージなのだろう。
そしてその上で再び冒頭の問いが繰り返されるのだ。
「何の罪もない兄弟姉妹、両親、子どもたちが殺された、と知ったとき、あなたならどうする?」
(ホロコーストを題材にした作品で、ここで紹介したものでは
手紙は憶えている - 映画のあとにも人生はつづく (hatenablog.com)
アイヒマン・ショー - 映画のあとにも人生はつづく (hatenablog.com)
否定と肯定 - 映画のあとにも人生はつづく (hatenablog.com)
などがあります。いずれも考えさせられる映画でおススメです)
脚本・監督:ドロン・パズ、ヨアヴ・パズ
主演:アウグスト・ディール、シルヴィア・フークス
ドイツ・イスラエル 2020 / 110分
映画『復讐者たち』公式サイト (fukushu0723.com)