映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

ONODA 一万夜を越えて

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フィリピン、ルバング島。一人の若者が船から降りると、密林に流れる川沿いにキャンプを張り、日本の軍歌を流し始める。1974年のことだ。この密林の中で今も戦闘状態でいる一人の兵士に会うために来た。その男は小野田寛郎という。

 

陸軍中野学校二俣分校で特殊訓練を受けた小野田が、ゲリラ戦を指揮するためにルバング島に派遣されたのは1944年12月。この時まで実に30年間をジャングルで生きていたことになる。小野田は赴任前に上官から「君たちに死ぬ権利はない」と言われ、玉砕は固く禁じられていた。

 

この映画は、小野田がその30年間、圧倒的な情報不足の中で自らの役目をどのように全うしようとしたか、また、どのように生きたかを描いた実話である。

 

監督はフランス人のアルチュール・アラリ。2016年の「汚れたダイヤモンド」で注目され、今回が長編2作目。

 

「本来、命令に対しての誠実さとか、忠誠心とか、尽くす気持ちというのはポジティブな精神もとづく行動のはずです。しかし、任務とはいえ、それを果たすことで、小野田さんは殺人者や強奪者にもなってしまう。そういう小野田さんの気持ちは、『曖昧さ』に満ちていると感じました。そういう曖昧さや複雑さに興味を惹かれました」

(SCREEN ONLINE インタビューから)

 

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最初は3人の部下と行動を共にしていた小野田だったが、ひとりは島民の牛を盗もうとして撃たれ、ひとりは逃亡し(彼が小野田の存在を伝えた)、ひとりは島民の奇襲にあって亡くなった。そしてひとりになる。

 

終戦から5年して逃亡した部下はこう語っていた。

 

「教えてほしいんです。(自分たちの戦闘行動は)何かの役に立ったのか。それとも何の意味もなかったのか。」

 

それからさらに25年。小野田の30年という歳月にいったいどんな意味があったのか? 映画は一つの回答を与えているような気がする。

 

小野田は一人になるとおそらくは定期的に、かつての部下が亡くなった島の土地を訪れ、花を手向けていた。そして死んだ彼らに向かって呟くのだ。

 

「誰のことも忘れない」

 

死んだ仲間と語る小野田の表情が、彼が生き延びる意味を感じさせて静謐である。

 

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脚本・監督アルチュール・アラリ
主演:遠藤雄弥、津田寛治、仲野太賀
フランス・ドイツ・ベルギー・イタリア・日本  2021 / 174分

映画『ONODA 一万夜を越えて』2021年10月8日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国公開 (onoda-movie.com)