映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

PLAN75

ひとりの老人が殺されるところから始まる。犯人は自らの行いは社会のためだと言い、これがすべての始まりだとうそぶき自害する。生産性のない老人は社会のお荷物と考えているのだ。こうした事件が立て続けに起こり、やがて国は「PLAN75」という制度をスタートさせた。

 

PLAN75は、75歳になると自ら死を選ぶことができるという制度。安楽死をサポートするということだ。市役所に申し込むと、何に使っても良い10万円が支給され、心変わりしないように担当の職員が付く。

 

すべては穏やかに笑みをもって行われる。おかしいと思っても、自分で選ぶという制度の前提がそのおかしさを覆ってしまっている。

78歳の角谷ミチ(倍賞千恵子)は夫と死別して一人暮らし。ホテル清掃の仕事をしていたが、ある日同年齢の仲間が倒れたことからなぜか連帯で責任を取らされてしまう。78歳で新たな職探しはきつい。職場にいた仲間とも疎遠になり、PLAN75のことをつい考えてしまう日々だ。生活保護を勧める役人に彼女は言う。

 

「もう少し頑張れるんじゃないかと思って」

 

そんなある日、かつての同僚を訪ねたミチは、玄関に鍵がかかったままになっているのを不審に思い、引き戸を開けて入っていく。そこは腐臭が漂い、誰にも発見されないまま孤独死している同僚の姿があった…。

 

監督は早川千絵。これが長編デビュー作。見ていて相模原で起きた障がい者殺人のことが頭をよぎったが、やはりこのように語っている。

 

「私は10年ほどニューヨークに住んで2008年に帰国したのですが、久しぶりに帰ってきた日本では自己責任論という考え方がとても大きくなっていました。社会的に弱い立場にいる方たちへの圧力が厳しく、みんなが生きづらい社会になっていた。それが年々ひどくなると感じていた2016年の夏、相模原の障碍者施設で起きた事件にものすごい衝撃を受けました。こういう社会になってしまったから起こった事件なのではないかと考えるうちに<プラン75>という設定を思いつきました。」

 

ミチはPLAN75に申し込む。すると役所の担当から電話がかかってきて、「その日」まで何日かに一度15分だけ話を聞いてもらうことになる。たった15分の会話でも楽しそうだ。そんなミチはある時、担当者と直に会えないかと頼んでみる…。それにしても、たまに15分会話するだけでこんなに満たされた顔になるのだ。

このプランの巧妙なところは、病気で苦しんで死ぬより楽に死ねるかもしれないと思わせること、そしていつでも中止することが出来るということだ。しかし、このまま制度が続くと、75歳という年齢はやがて70歳、60歳と下がっていくだろう。年齢だけでなく、何らかの能力値をもとにいくらでも設計できるようになる。その時この制度本来の醜悪さがあからさまに顔を出し、やがて覆いきれなくなるに違いない。

 

これは余裕のなくなった今の社会の行きつく先の姿なのか。損か得か、無駄か効率的か、その判断を下すことが、個人の能力の最優先の使い道となって、経済効率性の奴隷のような今の社会の。

映画の終盤、ミチのとる行動は驚くべきものだ。これが希望だという見方もできるが、たったひとりでは社会は変わらないという、ある種の絶望をも示していて心に残る。

 

(ずいぶん久しぶりにアップしました。コンスタントに続けたいなあと思ってはいるのですが。)

 

監督・脚本:早川千絵
主演:倍賞千恵子磯村勇斗河合優
日本・フランス・フィリピン・カタール  2022/ 112分

映画『PLAN 75』オフィシャルサイト 2022年6/17公開 (happinet-phantom.com)