ひつじ村の兄弟
どんよりと垂れ込める雲の下、のどかな丘陵にひんやりとした風が吹く。北欧の小さな島、アイスランドの北部。この土地に生まれ、羊を飼って生きてきたおじいさん兄弟の物語だ。こう言うととてもほんわかとした映画のようだが、実はとても怖い映画である。
2人は隣同士だがとても仲が悪い。40年もの間一言も口を聞いていない。ある時、弟のグミーは、兄の羊が感染症にかかっていることを発見する。スクレイピーという病気で治る見込みはない。獣医は村のすべての羊を殺処分することにした。村は不穏な空気に満たされる。ギミーは愛する羊たちを自分の手で殺そうとするのだが・・・。
監督・脚本はグリームル・ハゥコーナルソン。
「牛はすぐに生活の糧になりますが、酪農家たちの主たる趣味や癒しは羊なのです。どういうわけか、人間と羊の関係は特別に親密なものがあり、私は常にこの現象に興味を持ち刺激を受けてきました。これが私が描きたかった世界です。羊と孤独に生きる人々は、自然と動物たちとの感情的な繋がりを発展させており、これは現代社会において極めて珍しい現象となってきています。」
聖書ではイエスが生まれたとき、羊飼いは夜通し羊の番をしていて、そこに天使が誕生を知らせにやってくる。おじいさんは二人とも羊毛(?)のセーターを着て同じようにひげもじゃである。寒いのになぜか入浴シーンが多く、裸か羊毛のセーターかという印象は、まるで羊人間である。羊と化した人間が、羊を処分など出来るものか。
自然と同化した暮らしは、そこに生きる人独特のモラルがある。それはこの二人のおじいさんのように、自らの感情に素直に従うということだ。それが社会が形作ってきたモラルと相容れない時、悲喜劇が起きる。悲喜劇と感じるのも都会に生きる人間の感性かもしれない。羊飼いは夜通し羊の番をしなければならないのだ。
後半、この二人のとてもチャーミングなおじいさんは、脇目も振らずに疾走する。思いもかけない結末に向かって。
監督・脚本:グリームル・ハゥコーナルソン
主演:シグルヅル・シグルヨンソン、テオドル・ユーリウソン
英題:RAMS
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