映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

2021-01-01から1年間の記事一覧

梅切らぬバカ

一軒家の庭先で、中年になった息子の髪を切る母親。庭には1本の大きな梅の木があり、枝が敷地をはみ出して細い通りをふさいでいる。隣に誰かが引っ越してきたが、枝が邪魔をする。息子は忠(ちゅう)さん(塚地武雅)。知的な障害を抱えているように見える。…

ONODA 一万夜を越えて

フィリピン、ルバング島。一人の若者が船から降りると、密林に流れる川沿いにキャンプを張り、日本の軍歌を流し始める。1974年のことだ。この密林の中で今も戦闘状態でいる一人の兵士に会うために来た。その男は小野田寛郎という。 陸軍中野学校二俣分校で特…

アイダよ、何処へ?

真剣な面持ちの男が3人、自宅のソファに座っている。そして女。女はアイダという。男たちは夫と二人の息子だ。これから起こることに身構えるような面持ちである。 1995年7月、ここボスニアヘルツェゴビナのスレプレニッツァが、セルビア軍に包囲されていた…

由宇子の天秤

川べりで中年男性をインタビューするテレビの撮影クルー。話しているのは、この場所で亡くなった娘の父親らしい。周りでプロデューサーが時間を気にしてやきもきするが、女性のインタビュアーは意に介さず、ぎりぎりまで相手の言葉を待っている。「娘さんに…

ミス・マルクス

「資本論」を書いたカール・マルクスには娘が3人いた。末娘のエリノアは聡明な子で早くから政治と文学に深い関心を示していたという。長じて父の仕事を支え、父亡き後も労働者の環境改善や、男女平等を訴えた。この映画はそんなエリノア・マルクスの半生を描…

アナザーラウンド

北欧デンマーク。なんともやる気のない高校教師マーティン(マッツ・ミケルセン)が主人公。授業では何を言ってるのかさっぱり分からず、受験を控えた生徒の保護者が、連れ立って学校に文句を言いに来る始末。ここまであからさまに、やる気のない教師がいる…

ドライブ・マイ・カー

「僕は正しく傷つくべきだった」 (家福の言葉) 明け方の都会の空が窓の向こうに見える。女が何か話しているが、逆光で影しか見えない。裸のようだ。ベッドの上にあおむけになった男が相槌を打つ。女が話しているのは物語の断片。初恋の男性の家に忍び込む…

キネマの神様

映画があるじゃない ( 娘の歩の言葉) 山田洋次89歳の89作目の作品。この映画の原作となる小説を書いた原田マハは、山田監督について、 「滋味あふれる人生を描き、人情深い映画の数々を撮ってきた伝説の監督」 と語る。果たしてこの映画は? ギャンブルに…

復讐者たち

映画の冒頭、観客に問いかけるナレーションで始まる。 「何の罪もない兄弟姉妹、両親、子どもたちが殺された、と知ったとき、あなたならどうする?」 ドイツ。郊外の農家にひとりの男が現れる。ホロコーストを生き延びたユダヤ人のマックスだ。家主は猟銃を…

ミナリ

失敗するとわかっててあなたを信じるなんて。私は疲れ切ってるの (モニカの言葉) アメリカ南部アーカンソー州の田舎道を引っ越しのトラックが走る。到着したのは何もない原っぱのような平原。そこに1台のトレーラーハウスが停まっている。 「ここは何?」 …

わたしはダフネ

匂いを嗅いでみて。同じ匂いがするでしょう? (ダフネの母親の言葉) ダフネ、赤い髪の女性。靴に入り込んだ石ころを気にしていたが、取れると母親と並んで歩いてゆく。イタリアの夏の別荘地。休みが終わり、そろそろ帰り支度というときに、ダフネの声が響…

ファーザー

「あなたはいったいいつまで我々をイラつかせる気ですか?」 (娘婿の言葉) ロンドンで一人暮らす81歳のアンソニー(アンソニー・ホプキンス)。娘のアン(オリヴィア・コールマン)が慌てて部屋に入ってきたかと思うと、介護人が辞めてしまったと文句を言…

名も無い日

「怖ろしくて怖ろしくてどうしようもない。こんな気持ち、あんたにわかるん?」 (章人の言葉) 熱田神宮の熱田まつりは毎年6月、名古屋に夏の到来を感じさせる祭りだという。お椀をさかさまにした形にいくつもの提灯が飾られ、高さ18mの巨大な光のモニュ…

やすらぎの森

「苦しみから逃れるために孤独になった。今だったらそんな選択はしない」 (画家テッドの言葉) カナダ、ケベック州の南西部。鬱蒼とした針葉樹の森のなかに小さな湖がある。畔に暮らすのは世を捨てた3人の老人。ウサギを捕まえ、魚を釣る自給自足の生活。湖…

茜色に焼かれる

30がらみの男が鼻歌を歌いながら自転車に乗っている。幹線道路の交差点を渡ろうとするが、1台の乗用車が猛スピードでやってくる。あっという間の事故。乗用車にはアクセルとブレーキを踏み間違えた高齢ドライバーが乗っていた。 物語はその7年後から始まる。…

すばらしき世界

窓の格子に雪が積もっている。旭川刑務所。初老の男がこの日、13年の刑期満了を迎える。刑務官とのやり取りで、自分の行った殺人を少しも反省していないとわかる。刑務官も持て余す男だったらしい。笑いながら「三上だけはもうごめんだ」という。三上正夫、…

羊飼いと風船

曇りガラスのようなものを通して見える青空。幼い兄弟が見ているのは、羊たち、おじいちゃん、そしてお父さんがバイクに乗ってやって来る。曇りガラスのようなものは風船だ。だけどただの風船ではない。枕の下にある風船。だからお父さんにこっぴどく叱られ…

この世界に残されて

第二次世界大戦後間もないハンガリー。16歳のクララは初潮を迎えるのが遅く、心配した叔母に連れられ産婦人科で検診を受けている。 医師のアラダールが、 「お母さんも不順だった?」 と問うと、 「まだ生きてる」 と強い口調で答える。だが、すでに両親と妹…