映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

怪物

湖の畔の小さな町。ある夜、雑居ビルで火災が起こった。サイレンが鳴り響き、燃え上がる炎とそれを消化しようとする消防士。マンションのベランダでそれを見物する母親と子どもがいる。シングルマザーの早織(安藤サクラ)と小学校5年の湊(黒川想矢)だ。 …

生きる LIVING

黒澤明監督の「生きる」をリメイクしたイギリス映画。脚本はノーベル賞作家のカズオ・イシグロである。 1950年代ロンドン。資料映像のようなざらついた画面で始まる。ある一人の若者が、汽車を待つ駅で、これから働く市役所の先輩たちに挨拶している。そのあ…

ちひろさん

ちひろさんはとある港町のお弁当屋さん。と言ってもアルバイトで店先に立っている売り子さんだ。元風俗嬢と言うことだが別に隠すわけでもなく、ちひろさん目当ての男性客も多い。 公園で猫と遊んだり、子どもとじゃれ合ったり。ホームレスのおじさんと知り合…

すべてうまくいきますように

作家のエマニュエルは、執筆中の自宅で電話を受けると急いで部屋を飛び出す。あわててコンタクトレンズを忘れ、取りに帰るほど我を忘れている。向かったのは病院。父親が脳卒中で倒れ、運ばれたのだ。しかし父親は元気そうで、不自由はあるが命に別状はなさ…

エンドロールのつづき

インドの西、グジャラート州の田舎町。線路沿いにすむサマイ(9歳)は、駅の小さなチャイ屋台で父親を手伝っている。列車が到着すると客にチャイを売るのだ。めったに列車の来ない線路は子どもたちの遊び場だ。打ち捨てられた様々なものを使って、時に列車に…

そばかす

4人で盛り上がっているように見える合コンだが、女性のひとりはつまらなさそう。男性が気を使って話を振ってもなかなか入り込めない。その女性は蘇畑佳純(そばたかすみ・三浦透子)。映画が好きだというので、男は二人で見に行こうと誘うが、佳純は戸惑うよ…

ケイコ目を澄ませて

東京の下町。小さな部屋でちゃぶ台を前に座り、若い女性が何かノートに書きつけている。その鉛筆の音だけが静かな部屋に響く。ただケイコにその音は聞こえない。ケイコは生まれつきの感応性難聴で両耳とも聞こえないのだ。 ケイコ(岸井ゆきの)は近くの古ぼ…

あのこと

あのことは決して誰にも話してはいけない。口にしただけで人は顔を背けて遠ざかってしまう。それが仲の良い友達であっても。 アンヌ(アナマリア・ヴァルトロメイ)はフランスの大学生。教師からは一目置かれる優等生だが、夜の酒場では友人たちとフランクに…

ある男

山間の集落にある古びた文房具店。店番の女性(安藤サクラ)が品物に触れているが、何をしているか分からない。心はここになく、やがて突然涙があふれる…。そこへ若い男性客(窪田正孝)が入ってくる。男性客はこのあたりの人間ではないようだったが、この日…

ザリガニの鳴くところ

アメリカ、ノースカロライナ州の湿地帯。町から離れた水辺のほとりに一人の少女が暮らしていた。ムール貝を採ってはそれを売ることで生計をたて、買ってくれる商店の夫婦以外とは人とほとんど交わることがない。名をカイアと言う。 ある時、湿地の櫓(やぐら…

ドライビング・バニー

信号待ちの車のフロントガラスを磨いて小銭を稼ぐ―。手慣れた仕草で踊るように磨いていくバニーはシングルマザー。ただし二人の子どもに会えるのは限られた日数だけのようだ。子どもは里親に預けられ、自分は妹の家に居候している。 幼い娘シャノンの誕生日…

秘密の森の、その向こう

8歳の女の子、ネリー。廊下を渡り、次々に病室を訪れてはそこにいるお年寄りに「さよなら」を言って歩く。おばあちゃんが暮らしていた病院のようだ。でも自分のおばあちゃんにはさよならを言うことが出来なかった。 荷物を持って両親と一緒に向かうのは、か…

アイ・アム まきもと

牧本壮、48歳。市役所職員だが、「おみおくり係」という少し変わった仕事をしている。身寄りがなく独りで亡くなった人を無縁墓地に葬るのだ。その部署は彼一人しかいない。警察から連絡が入ると、亡くなった部屋に行き、遺品を確認。身寄りと呼べるような人…

よだかの片想い

若い女性がインタビューを受けている。 ―最初に顔のあざを意識したのはいつですか? 「小学校の先生が琵琶湖の説明をしたときに、クラスメイトが私の顔のあざを見て、琵琶湖だ、と言ったんです」 ―ひどいですね。 「いえ」 この記事はやがて他のインタビュー…

LOVE LIFE

何気ない日常の中にある、深い穴。思いもしない偶然によって、そこに落ちてしまう人間たちは、自らの内に秘めて来た感情をさらけ出す―。 団地に住む妙子(木村文乃)は、この日4歳の息子敬太がオセロ大会で優勝したことで、お祝いパーティーの準備をしている…

セイント・フランシス

とあるパーティーで自分の見る夢を語る男性。窓から飛び降りて自殺する夢。つまらなさそうに聞いている女性は、 「なぜ飛び降りるの?」と聞く。「もう34歳だぜ。このままじゃ終わりだよ」男性は、彼女も34歳でウェイトレスをしていると知ると離れていってし…

戦争と女の顔

喉の奥から鳴るようなシャックリのような音。画面の暗闇から聞こえてくると思うと、突然女性の顔が大写しになる。目の焦点があわず、意識が現実に無い。音は彼女の喉で鳴っている。 いつものことよと周りの女性。ずっと続いていた耳鳴りのような不快音が消え…

PLAN75

ひとりの老人が殺されるところから始まる。犯人は自らの行いは社会のためだと言い、これがすべての始まりだとうそぶき自害する。生産性のない老人は社会のお荷物と考えているのだ。こうした事件が立て続けに起こり、やがて国は「PLAN75」という制度をスター…

ゴヤの名画と優しい泥棒

ロンドン・ナショナル・ギャラリーで、ある絵画が盗まれた。ゴヤの「ウェリントン侯爵」。1961年のことだ。この絵画は現在の貨幣価値で5億円近くの値がついていた。警察は国際的窃盗団の犯行と断じたが、届いた脅迫状には「絵を返してほしかったら年金受給者…

金の糸

今年で閉館するという岩波ホールに出かけた。以前来た時よりも多くの人が入っているような。気のせいか。しかしこの映画館が閉館することがあるなんて思いもしなかったです。今上映しているのは、ジョージア映画の「金の糸」。 年老いた小説家のエレネ。パソ…

国境の夜想曲

古い城のような建物の中、頭にスカーフを巻いた女性たちが歩いてゆく。ある部屋の一室から女の嘆きの歌が聞こえる。息子をこの部屋で亡くした母親のようだ。 お前の気配をここに感じる… かつてここは牢獄だったのだろう。母親が見つめる写真はひどい拷問を受…

香川1区

去年10月の衆議院選挙。激戦区と言われた四国香川1区を制するのは誰か?この映画は、立憲民主党から立候補した小川淳也(50)に焦点を当て、4カ月間の選挙戦を追ったドキュメンタリーである。 香川1区は自民党の平井卓也氏(63)の牙城である。3世議員で、地元シ…

世界で一番美しい少年

ある老俳優が廃墟の中を歩く。その後ろ姿を追いかけるカメラ。男が世界を席巻した時代に享楽を尽くした建物だ。その禍々しさがひとりの俳優の人生を暗示する。 かつて「ベニスに死す」という映画で、「世界で最も美しい少年」と言われ、世界中の話題を集めた…

梅切らぬバカ

一軒家の庭先で、中年になった息子の髪を切る母親。庭には1本の大きな梅の木があり、枝が敷地をはみ出して細い通りをふさいでいる。隣に誰かが引っ越してきたが、枝が邪魔をする。息子は忠(ちゅう)さん(塚地武雅)。知的な障害を抱えているように見える。…

ONODA 一万夜を越えて

フィリピン、ルバング島。一人の若者が船から降りると、密林に流れる川沿いにキャンプを張り、日本の軍歌を流し始める。1974年のことだ。この密林の中で今も戦闘状態でいる一人の兵士に会うために来た。その男は小野田寛郎という。 陸軍中野学校二俣分校で特…

アイダよ、何処へ?

真剣な面持ちの男が3人、自宅のソファに座っている。そして女。女はアイダという。男たちは夫と二人の息子だ。これから起こることに身構えるような面持ちである。 1995年7月、ここボスニアヘルツェゴビナのスレプレニッツァが、セルビア軍に包囲されていた…

由宇子の天秤

川べりで中年男性をインタビューするテレビの撮影クルー。話しているのは、この場所で亡くなった娘の父親らしい。周りでプロデューサーが時間を気にしてやきもきするが、女性のインタビュアーは意に介さず、ぎりぎりまで相手の言葉を待っている。「娘さんに…

ミス・マルクス

「資本論」を書いたカール・マルクスには娘が3人いた。末娘のエリノアは聡明な子で早くから政治と文学に深い関心を示していたという。長じて父の仕事を支え、父亡き後も労働者の環境改善や、男女平等を訴えた。この映画はそんなエリノア・マルクスの半生を描…

アナザーラウンド

北欧デンマーク。なんともやる気のない高校教師マーティン(マッツ・ミケルセン)が主人公。授業では何を言ってるのかさっぱり分からず、受験を控えた生徒の保護者が、連れ立って学校に文句を言いに来る始末。ここまであからさまに、やる気のない教師がいる…

ドライブ・マイ・カー

「僕は正しく傷つくべきだった」 (家福の言葉) 明け方の都会の空が窓の向こうに見える。女が何か話しているが、逆光で影しか見えない。裸のようだ。ベッドの上にあおむけになった男が相槌を打つ。女が話しているのは物語の断片。初恋の男性の家に忍び込む…