映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

2018-01-01から1年間の記事一覧

日日是好日

家族でフェリーニの「道」を見に行った。小学校5年だった。典子は何がいいか、さっぱり分からなかった。しかし、 「世の中には『すぐわかるもの』と、『すぐわからないもの』の二種類がある。すぐにわからないものは、長い時間をかけて、少しずつ気づいて、…

判決、ふたつの希望

レバノン、ベイルート。ある政治集会の模様が映し出される。人々は党首の演説に酔いしれている。キリスト教右派系のこの政党を支持するトニーは、アパートに帰ると身重の妻と二人暮らしだ。ある日、ベランダの水漏れ修理をしたいと現場監督の男が訪ねてくる…

教誨師

狭い密室にふたりの男が机をはさんで対峙している。一言も発さず静かに目を閉じている男は死刑囚、もう一人はキリスト教の教誨師のようだ。教誨師は宗教の教義に基づいて、被収容者と対話を重ねる。ある人は自らの身の上を語り、ある人は刑務官の愚痴を言い…

ハナレイ・ベイ

仕事が忙しくなかなか映画を見ることが出来なかった。久しぶりに見たのが村上春樹原作の「ハナレイ・ベイ」だった。 ハワイ・カウアイ島のハナレイ湾。美しい入り江の風景は、フラの曲にもたびたびうたわれているという。早朝、日本人の青年がサーフボードに…

子どもが教えてくれたこと

小さな子どもが病院の廊下を走り抜ける。追いかけるカメラ。 「ジェゾンは食堂にいるよ!」 シャルルが食堂のドアを勢いよく開けると、仲良しのジェゾンが確かにそこにいる。シャルルはジェゾンに本を読んであげてと院内教室の先生に頼まれたのだ。それにし…

万引き家族

スーパーに入ってくる親子。互いに合図しながら店員の目を盗み、息子の方がかばんに商品を入れてゆく。うまくいくと帰りに商店街で温かなコロッケを買う。寒い時期の物語だ。ふと見るとアパートのベランダに凍えるように女の子が座っている。昨日も見たと父…

友罪

ある町工場に、二人の若者が新入りとして入ってくる。元週刊誌記者の益田と、工場を転々としているらしい鈴木。二人は、会社の寮となっている一軒家に先輩社員と暮らし始める。益田は先輩たちともそつなく付き合うが、鈴木は愛想が悪い。部屋がとなり同士の…

フロリダ・プロジェクト

アメリカ、オーランド。夏休みの子どもたち。新しい車がやってくると、6歳の女の子ムーニーは、友だちとモーテル2階の廊下から唾を飛ばしっこする。車のフロントはベタベタ。やがて持ち主の中年女性が、ムーニーのいる部屋に怒鳴り込んでくる。 「今度は何…

オー・ルーシー!

混みあった駅のホーム。さえない年配のOLが所在無げに電車を待っている。うしろから若い男性が何かを耳打ちすると、ホームに入ってくる電車に飛び込む。呆然とする女性、節子。出勤すれば自分よりさらに年配の女性が、興味深げに聞いてくる。しかし日常は変…

タクシー運転手

1980年5月、ソウル。タクシー運転手のキム・マンソプは、学生たちがデモを行い道がふさがれることに苛立つ。客は今にも生まれそうな妊婦で病院へ急いでいるのだ。なぜデモなんかするのか。 「デモをするために大学に入ったんじゃないだろうに」 家に帰ると小…

ニッポン国VS泉南石綿村

2015年4月、大阪府泉南市で「泉南石綿の碑」の除幕式が行われている。この地域は明治の終わりから100年にわたって石綿紡織業が地場産業だったという。 資料写真を背景に監督の原一男がナレーションで説明している。石綿は耐火性や耐久性に優れ安価で生産され…

ラッキー

赤茶けた土地に灌木が茂り、サボテンが立ち並ぶ。そこに大きなリクガメがゆっくりと横切ってゆく。アメリカ南西部。90歳でひとり暮らしの男の一日がまた始まる。ゆっくりとしたウォーミングアップを行い、冷蔵庫に冷やしたグラスのミルクを飲み干す。そして…

あなたの旅立ち、綴ります

人のやることが気に食わない。家政婦がいても、庭師がいても、文句をつけては全部自分でやってしまう。お屋敷の中、夜になると孤独になる。眠れないので薬を飲む。多めに飲んでも死なずにまた病院から戻ってくる。81歳。広告業界で成功した女性、ハリエット…

15時17分、パリ行き

人混みの中、リュックを担いでキャリーバックを引きずる男。その背中をカメラは追いかける。顔は判然としない。ひげ面。そしてサングラス。やがてここが列車の駅だと分かる。男が乗り込もうとするのはアムステルダムを15時17分に出発したパリ行きの列車だ。 …

願いと揺らぎ

観音像のように見える枯れ木が一本、海沿いの集落に立ちすくんでいる。その集落は津波に洗われ、ほとんどが流されてしまった。ひとりの老婆が何もかもなくなった場所で、かつてあった自宅を案内する 「あそこがお勝手口、…ここが玄関か…」 宮城県南三陸町、…

ロープ 戦場の生命線

前方にほのかな明かりが見える。手前に何か羽根のようなものがゆっくりと回転している。暗い井戸の中から外を見上げた映像だ。やがて回転するものが人間だと分かる。井戸に落ちた人間をロープで引き上げているのだ。しかし水を含んだ死体は重く、ロープが切…

スリー・ビルボード

アメリカ・ミズーリ州。さびれた道路に朽ちかけた3枚の広告看板が並ぶ。写真も剥がれ落ち、そこに何も読み取ることは出来ない。「あんな道は迷ったやつか、ぼんくらしか通らない」という道路で、今や広告を出す人間など誰もいない。ミルドレッドはこの3枚の…

デトロイト

1967年、アメリカミシガン州デトロイト。無許可で営業する黒人の酒場が摘発された。客と従業員を次々に車に乗せる白人の警察。やがて近隣の黒人たちが周りを取り囲みはじめる。最後の車が行ってしまうと、黒人たちはやりきれない怒りに任せて周囲の店を襲う…

はじめてのおもてなし

ドイツ、ミュンヘン。ひとりの難民の青年が美容院で髪の毛を切っている。仲間から、その髪型だとドイツ人に嫌われるとアドバイスを受けたのだ。ナイジェリアから逃がれて来たディアロは、難民センターで暮らしながら、難民の認定を待っている。 と、ここで画…

ラサへの歩き方 祈りの2400km

五体投地という言葉に惹かれて映画を見た。―中国チベット自治区の東、マルカム県プラ村。薪をストーブにくべると子どもたちが目を覚ます。標高4000mの高地で人々はヤクを放牧し、薪を集めるために森に入る。父親を亡くしたばかりのニマは、父親の弟ヤンペル…