映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

2015-01-01から1年間の記事一覧

ひつじ村の兄弟

どんよりと垂れ込める雲の下、のどかな丘陵にひんやりとした風が吹く。北欧の小さな島、アイスランドの北部。この土地に生まれ、羊を飼って生きてきたおじいさん兄弟の物語だ。こう言うととてもほんわかとした映画のようだが、実はとても怖い映画である。 2…

母と暮せば

1945年8月9日。プルトニウム爆弾を積んだB29が長崎の上空に到着する。最初は雲に覆われていたが、やがて視界が晴れて町を見渡せるようになる。爆弾投下。11時02分。爆心地に近い長崎医科大学では、多くの学生が授業を受けていた。青白い閃光、溶けてゆくイ…

リトルプリンス   星の王子さまと私

童話「星の王子さま」に登場する飛行士がまだ生きていた!という設定のファンタジー。教育ママのもと、これからの人生の予定をすべて決められ、素直に与えられた宿題を粛々とこなしていた女の子。引っ越し先のおとなりさんが一風変わったおじいさんだったこ…

FOUJITA

1920年代のパリ。一人の日本人画家が、画壇を席巻していた。藤田嗣治である。藤田は乳白色の肌の色を独自に考案し、これまで見たこともないような新たな美を創造した。一方で、夜な夜な画家仲間とどんちゃん騒ぎを繰り返し、フーフーと呼ばれ親しまれたのも…

シーヴァス 王子さまになりたかった少年と負け犬だった闘犬の物語

眼差しにどこか暗い独特の光を湛えた少年である。11歳-。身の回りの世界が少しずつくっきりとし始める頃、世界と自分との間に広がってゆく違和が少年を苛立たせる。 トルコの東部アナトリア地方。乾いた砂ぼこりが舞う砂漠のオアシスのような村だ。学校で行…

ボクは坊さん。

四国八十八ヶ所霊場、第57番札所、栄福寺。住職の祖父が突然亡くなり、跡を継いだ24歳の青年、光円が主人公。現代に生きる若者が僧侶という仕事を選択したとき、いったいどんな世界が見えてくるのか。坊主専用バリカンや、般若心経の着信音、南無スターズと…

ヒトラー暗殺、13分の誤算

真っ暗闇の中、口に懐中電灯をくわえた男が必死にダイナマイトを詰めている。そこはビアホールの2階に伸びた大きな柱だ。その真下にはやがて行われるヒトラーの演説台がある。…数時間後ダイナマイトは爆発するが、その時ヒトラーはすでに演説を終えていた。…

光のノスタルジア

南米チリ。北部に広がる荒涼としたアタカマ砂漠。ここに「過去」を求めて人々が集まる。「過去」の痕跡を探す考古学者、宇宙の光をとらえる天文学者、この地で肉親を亡くした女性たち…。人々はそれぞれのやり方で「過去」に向き合う。遠い「時間」のかなたに…

岸辺の旅

ひとり暮らしのピアノ教師、瑞希がひとり「しらたま」を作っている。何か目に見えぬものが背後にいると感じる。見ると3年間失踪していた夫がそこに立っている。瑞希は驚くでもなく言う。「おかえりなさい」と。しかし夫は、実は自分は「死んでいる」という。…

夏をゆく人々

自然が素肌に触れてくる。柔らかな木の感触ではなく、ごつごつした岩の感触。吹き抜ける風が海の匂いを湛えている。暗闇が漆黒に染まる。眠れない女の子がおしっこに起きる。便器にしゃがんだ女の子の周りに家族が集まる。やがて小さな音がする…。イタリア中…

ナイトクローラー

暗闇にぎょろぎょろとした大きな目が浮かぶ。アメリカ、ロサンゼルス。工場の敷地に忍び込んで金網を切り取り盗みだす男。金網を売りに行った工場で、なぜか就活生よろしく自分を売り込む。「勤勉で向上心が強く仕事はすぐ覚える。最初は研修でいい、無給で…

私に会うまでの1600キロ

荒い息遣いが落ち着くと、岩棚をわたる風の音がする。アメリカカリフォルニア州北部の岩山。見渡す限りの緑。登りついた苦しげな女性。登山靴のなかは親指の爪がはがれかけている。痛みをこらえ、それを自らはがしながら呟く。 「釘よりも、ハンマーになりた…

この国の空

暗闇に雨の音がする。雨の音に交じってブラームスのバイオリンが聴こえる。隣家の男が弾いているのだ。戦争末期の東京、杉並。里子は父親を病気で亡くし、母親と二人で暮らしている。静かな映画だ。民家は焼かれ、子どもたちは疎開、静けさの中で日常が繰り…

ラブ & マーシー 終わらないメロディ

もし君がどこかに去っても 人生はつづくかもね。でもそれでは、 この世界が僕に示せるものなど何ひとつない。 そんな人生に、なんの値打ちがあるだろう。 (「神さましか知らない」村上春樹訳) 今では伝説となったと言われるザ・ビーチ・ボーイズのアルバム…

野火

「到るところに屍体があった。生々しい血と臓腑が、雨あがりの陽光を受けて光った。ちぎれた腕や足が、人形の部分のように、草の中にころがっていた。生きて動くものは蠅だけであった。」(大岡昇平「野火」) たとえば渋谷の雑踏ですれ違う無数の人々に、ひ…

バケモノの子

9歳の夏、俺はひとりぼっちだった-。 荒んだ眼をした男の子が渋谷の繁華街をうろつく。母親を交通事故で亡くし、親せきに引き取られるのを拒んで徘徊しているのだ。自分を取り巻くあらゆるものに憎しみの目を向けながら。大嫌いだ、大嫌いだ、大嫌いだ、胸…

きみはいい子

人間はもともと邪悪なものなのだろうか。それとも人間はもともと善きものなのだろうか。 仏壇にお茶をあげ、自分もゆっくりと飲む。お婆さんがひとり、縁側で桜の花びらが舞い落ちるのに気付く。6月だというのに。玄関の呼び鈴に出てみると、若い男性がひた…

沖縄 うりずんの雨

うりずんとは、沖縄で春分から梅雨に入る時期までのこと。「潤い初め(うるおいぞめ)」が語源であるらしい。70年前のうりずんの季節に沖縄戦が行われた。沖縄では今もこの時期になると当時の記憶がよみがえり、体調を崩す人たちがいるという。 映画は、沖縄…

海街diary

わたしの両親はいわゆる「不倫」だった―。原作漫画のモノローグで語られるこの言葉が、主人公浅野すずの心に澱のようにたまっている。 浅野すず、14歳。仙台で生まれる。母親を急な病気で亡くし、父親はその後再婚して山形の小さな温泉街に。しかし父親も間…

サンドラの週末

監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 主演:マリオン・コティヤール ベルギー・フランス・イタリア/95分 原題「deux jours,une nuit」2014 電話が鳴っている。サンドラは眠っている。目が覚めると慌てて携帯を探り、話を聞きながら泣き出す…

あん

桜の花びらが舞う並木の通りを少し入ると、そこに小さなどら焼き屋がある。客はそれほどありそうもない。花びらが入っていたと、なじみの中学生たちになじられる様な、頼りない中年男が店主だ。ある時76歳だという老婆が、バイト募集の張り紙を見てやってく…

私の少女

監督・脚本:チョン・ジュリ 主演:ペ・ドゥナ、キム・セロン 韓国/119分 英題「A GIRL AT MY DOOR」2014 ワイパー越しに見える雨がやがて小止みになると、丘の上から見降ろす小さな漁村にかすかな日が差し始める。韓国南部の海辺の村。ソウルのエリート警官…

Mommy/マミー   

監督・脚本:グザヴィエ・ドラン 主演:アンヌ・ドルヴァル、アントワン=オリヴィエ・ピロン カナダ/138分 原題「MOMMY」2014 養護施設に預けられていた息子が食堂に火を放ち、友達にやけどを負わせた。呼び出された母親のダイアンは3年前に夫を亡くしたシ…

セッション  

監督・脚本:デイミアン・チャゼル 主演:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ アメリカ/107分 原題「WHIPLASH」2014 アメリカの名門音楽大学。有名教師があるドラム奏者の学生に目をつけ、徹底的にシゴキあげる―。こう書くとそれがどうしたという話だが、シゴ…

パプーシャの黒い瞳

監督・脚本:クシシュトフ・クラウゼ / ヨアンナ・コス=クラウゼ 主演:ヨヴィダ・ブドニク ポーランド/131分 原題「PAPUSZA」2013 ポーランドの美しい大地。その地を幌馬車で這うように移動する人々。ぬかるみに足を取られながら、いくつもの起伏を越えて…

妻への家路   ~それでも待ち続ける理由

監督:チャン・イーモウ 主演:チェン・ダオミン、コン・リー 中国/110分 原題「歸来 COMING HOME」2014 轟音をあげて通り過ぎる列車。うずくまる一人の浮浪者。文革の時代、右派と目され強制労働所に送られた男が逃亡した。20年近くも会っていない妻子に一…

おみおくりの作法   ~人生をリスペクトする方法

映画のあとに