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映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

山河ノスタルジア

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ペットショップボーイズの「GO・WEST」にあわせて若者たちが踊る。中国山西省の田舎町、汾陽。その中に25歳の美しいタオがいる。1999年、この時タオには、思いを寄せられている二人の幼なじみがいる。一人は内気な炭鉱労働者、一人は自信たっぷりの実業家だ。二人の間で揺れ動きながら一方を選択するタオだったが…。映画はこのあと27年にわたってタオの人生を点描することになる。

 

監督は「長江哀歌」「罪の手ざわり」の中国気鋭ジャ・ジャンク―。

 

「昔は世俗的な話には興味がなかったが、今はありきたりな物語をどう撮るかが大事だと思えるようになった。」

 

2014年、離婚したタオは、上海にいる夫に長男の親権を譲って一人で暮らしている。祖父の葬儀で久しぶりに会う息子に、得意の餃子を作って食べさせるタオ。そして2026年、長男のダオラーは成長しオーストラリアの大学に通う。しかし、中国語が話せず父親とコミュニケーションが取れずにいた…。 

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監督の言うように特別な人間が出てくるわけではない。どちらかと言うと皆典型的な人物だ。ただ2026年の大学で、年配の語学教師だけは典型から外れている。少し謎めいたところのある女性で、ダオラーは次第に惹かれてゆく。それまで12年、母親と会っていないダオラーの封印された思いが、彼女に触れることで溢れ出す。

 

「名前はタオ。“波”と同じ発音なんだ」

 

それでも母に会うことをためらうダオラーに、彼女が言う。

 

「時間がすべてを変えるわけじゃないのよ」

 

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その時、初老となったタオは中国の田舎町でひとり、餃子を作っている。若いころから作ってきたあの餃子だ。タオは、息子に呼びかけられたようで思わず振り返る…。

 

映画は変わらぬものを描き、そのことがしきりと胸を打つ。なぜなのだろう。

先日リバイバル上映されたバベットの晩餐会を見に行った。この作品も変わらぬものを描き心にしみる。            

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ノルウェーの寒村の教会。厳格な牧師のもとに暮らす美しい姉妹がいた。姉のマチーヌに心惹かれながら、ついに恋を打ち明けずに去った将校が、30年後の晩餐会にやってくる。それぞれがもう若くはない。バベットが作る素晴らしい晩餐のあと、かつて別れの挨拶を交わした同じ玄関で向き合う。将軍となった彼が言う。

  

「わたしはこれまでずっと、毎日あなたとともにいたのです。お答えください、あなたもそれをご存じだったと」

 

すると彼女が何の迷いもなく答える。

 

「ええ、そのとおりでした」

 

 

時の流れは多くの傷を癒してくれる。だから錯覚してしまうが、時の流れで色々なことが変わってしまうことに、実は私たちはとても傷つけられているのだ。

 

映画の終盤、タオは雪の降りしきる町に出る。そして誰もいない広場で、記憶の中の「GO・WEST」にあわせ、静かに踊る。雪の向こうに、いつも変わらぬ町の建物が見える。思えばタオはこの地を離れることがなかった。

永遠に続くように思えた時間はいつか終わり、この雪もいつか止む。そのことに傷つき、同じそのことに救われる。

 

監督・脚本ジャ・ジャンクー

主演:チャオ・タオ、チャン・イー、リャン・ジンドン

中国・日本・フランス 2015 / 125分

 

公式サイト

http://www.bitters.co.jp/sanga/ 

 

バベットの晩餐会

http://mermaidfilms.co.jp/babettes/