トランボ ハリウッドに最も嫌われた男
ロサンゼルスの郊外、農場の中の大きな邸宅。風呂場で湯に浸かりながら書き物をしている男がいる。ダルトン・トランボ、映画の脚本家である。ハリウッドでは名の知られたトランボだったが、労働運動に参加しているということから、いわゆる“赤狩り”の対象となってしまう。第2次大戦後すぐ、米ソ冷戦が始まったころである。
トランボは世間からは「裏切者!」と罵られ、映画業界のブラックリストに載って仕事も出来なくなってゆく。さらに議会の公聴会で反発、議会侮辱罪で逮捕、投獄されてしまうのだ。
出獄したトランボは、家族を養うために安いお金でB級映画の脚本を量産。その一方で温めていた脚本を友人名義で発表する。友人の名前はイアン・マクレラン・ハンター。ハンターは、その脚本のタイトルを「ローマの休日」と名付けた。それはアカデミー最優秀原案賞を受賞するのだが…。
監督は「オースティン・パワーズ」のジェイ・ローチ。
「私は本作によって、世間にこんな問いを投げかけた。どうしてあれほど愛国心の強い作家が、他の人々の目に反逆者と映ってしまったのか?彼の反逆とは職を奪われ、投獄されるに値するものなのか?こうした問いかけが本作品の核心をなしている。当時は少数派の意見を述べるだけでブラックリストに載り、刑務所へと送られた。トランボが語ったように、異論を認めることが民主主義の基本なのに、だ。」
トランボが幼い娘に問いかけられるシーンがある。
「お父さんは共産主義者なの?」
「そうだ」
「お母さんは?」
「違う」
「私は?」
「じゃあテストしてみよう。君の大好きなハム卵サンドをお弁当に持って行ったとする。クラスにお弁当を持ってこなかった子がいたらどうする?」
「分けてあげる」
「もっと働けと言わないのか?」
「言わない」
「金利をつけてお金を貸さないのか?」
「貸さない」
「じゃあ君は共産主義者だ」
共産主義がどんなものかこれではよくわからないが、トランボが考えている社会の良くない在り様がこれで見て取れる。こういった状況に対するアンチな態度が彼の共産主義なのだろう。(映画では彼の生活は裕福であり、急進的な共産主義者からは嫌われているようだ。)
トランボの経歴を見ると、父親の他界で学費がまかなえず大学を退学。家族を養うためにパン屋で働くが、書くことの情熱に駆られて様々な雑誌に記事や小説を書き続けた、という。とにかく「書きたい男」なのだ。この「書く」欲求が、“赤狩り”にあっても衰えず、偽名で書き続けることでついにブラックリストのばかばかしさを証明してみせてゆく。大した男であり、大した才能だと思う。
しかし世の中こんな大した男ばかりではない。いみじくも映画の最後に彼は語る。
「英雄も敗者もいなかった。いたのは被害者だけだ。」
いくつもの歴史が教えてくれる。異論を排除し、社会を一色に染め上げようという政党や団体、政治家がいれば、それは間違った道を示しているということを。ジェイ・ローチ監督はさらにこう語っている。
「異端と愛国は両立する。つまり真の愛国者が、時には少数派の意見を擁護することがある。それが本作のテーマなんだ。」
監督:ジェイ・ローチ
脚本:ジョン・マクナマラ
原作:ブルース・クック「Dalton Trumbo」
主演:ブライアン・クランストン
アメリカ 2015 / 124分
公式サイト