映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

こどもしょくどう

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昼は定食屋、夜は居酒屋になるような下町の食堂。小学5年のユウトは草野球チームの練習から帰ると、友達のタカシと一緒に夕ご飯を食べるのが日課だ。タカシは母親と二人暮らしで、夕飯を準備してくれないことが多いのだ。

 

タカシは体は大きいが、動作がのろいせいかクラスメイトからいじめを受けている。「臭い!」と言われながらホースで水をかけられるタカシ。その様子にイライラしながらも、見て見ぬふりをするユウト。ある時、川の岸辺に停まった車のそばで、小さな姉妹が遊んでいるのを見かける。それは先日、スーパーで万引きしようとしていた女の子だった。

それを見たタカシは

 

「なんかあいつら臭かったね」

 

という。思わず振り返るユウトだが…。
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監督はドキュメンタリーも数多く撮っている、日向寺太郎。この映画はフィクションである。実際のこども食堂は、2012年、東京都大田区青果店「気まぐれ八百屋 だんだん」の近藤博子さんが、地元の小学校の先生から「朝晩の食事をバナナ1本で過ごす子どもがいる」と聞いたことから始まったという。

 

「僕自身、現実社会における子ども食堂の活動はとても素晴らしいと思っていますが、いわゆる“いい人”しか出てこない劇映画は面白くない。子どもの視点に立った“はじまり”の話にすれば、主人公の子どもたちが世界を発見し、彼らの気持ちや行動が大人たちを動かして、ほんの少しでも社会が変わってゆくという物語を語れると思ったのです。」

 

女の子たちは姉妹で、父親と車で生活していたが、やがて父親も姿を見せなくなってしまう。同じ年代のミチルに惹かれたユウトは、家のおかずを包んだりしていたが、やがて家に連れてくる。

 

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ユウトの両親は親切にするが、親がいなくて学校も行っていないということがうまく理解できない。だからそのまま、親のいない川べりの車に帰してしまうし、行政に相談するしないで揉めることになる。いないと言っている親に遠慮してしまうのだ。

 

ある時、妹が見たがっている「虹色の雲」を探して、ユウトとタカシは学校をさぼってしまう。食堂に帰ったユウトはこっぴどく叱られ、ミチルに至っては親戚はいないのか、学校の先生は?と問い詰められてしまう。その時ユウトが叫ぶように言う。

 

「だから誰もいないって言ってんじゃんずっと!でも何もしてくんなかったじゃん!いっつも見てるだけだろ!…だから俺だって見てるだけなんだよ!いじめられてても知らんふりするんだよ!」

 

ちょっと自分を客観的に言いすぎる(言い訳の)きらいはあるが、大人には十分なインパクトがある。何もしていない身として、刺さる言葉だ。
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この作品は、とてもシンプルな物語でかつ、細部に微妙な不自然さを感じるところがある。しかしそれにも関わらずあるいはそれ故に、子どものひもじさや、親がいなくなってしまう苦しさが素直に胸に迫る。ミチル役の鈴木梨央が好演していると思う。

 

監督:日向寺太郎
主演:藤本哉汰鈴木梨央常盤貴子吉岡秀隆
日本  2019 / 93分

公式サイト

https://kodomoshokudo.pal-ep.com/