映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

日本映画

梅切らぬバカ

一軒家の庭先で、中年になった息子の髪を切る母親。庭には1本の大きな梅の木があり、枝が敷地をはみ出して細い通りをふさいでいる。隣に誰かが引っ越してきたが、枝が邪魔をする。息子は忠(ちゅう)さん(塚地武雅)。知的な障害を抱えているように見える。…

由宇子の天秤

川べりで中年男性をインタビューするテレビの撮影クルー。話しているのは、この場所で亡くなった娘の父親らしい。周りでプロデューサーが時間を気にしてやきもきするが、女性のインタビュアーは意に介さず、ぎりぎりまで相手の言葉を待っている。「娘さんに…

ドライブ・マイ・カー

「僕は正しく傷つくべきだった」 (家福の言葉) 明け方の都会の空が窓の向こうに見える。女が何か話しているが、逆光で影しか見えない。裸のようだ。ベッドの上にあおむけになった男が相槌を打つ。女が話しているのは物語の断片。初恋の男性の家に忍び込む…

キネマの神様

映画があるじゃない ( 娘の歩の言葉) 山田洋次89歳の89作目の作品。この映画の原作となる小説を書いた原田マハは、山田監督について、 「滋味あふれる人生を描き、人情深い映画の数々を撮ってきた伝説の監督」 と語る。果たしてこの映画は? ギャンブルに…

名も無い日

「怖ろしくて怖ろしくてどうしようもない。こんな気持ち、あんたにわかるん?」 (章人の言葉) 熱田神宮の熱田まつりは毎年6月、名古屋に夏の到来を感じさせる祭りだという。お椀をさかさまにした形にいくつもの提灯が飾られ、高さ18mの巨大な光のモニュ…

茜色に焼かれる

30がらみの男が鼻歌を歌いながら自転車に乗っている。幹線道路の交差点を渡ろうとするが、1台の乗用車が猛スピードでやってくる。あっという間の事故。乗用車にはアクセルとブレーキを踏み間違えた高齢ドライバーが乗っていた。 物語はその7年後から始まる。…

すばらしき世界

窓の格子に雪が積もっている。旭川刑務所。初老の男がこの日、13年の刑期満了を迎える。刑務官とのやり取りで、自分の行った殺人を少しも反省していないとわかる。刑務官も持て余す男だったらしい。笑いながら「三上だけはもうごめんだ」という。三上正夫、…

望み

高校のグラウンド。サッカーの試合が行われている。ゴールを狙う選手が倒れる。駆け寄るクラスメイト。画面は上空に切り替わる。埼玉県のある町が映され、やがてゆっくりと下降し、ある瀟洒な家のあたりを漂う。そこに挟み込まれる幸せな家族の写真―。 建築…

百円の恋 (2014年)

一子(いちこ)という変わった名前の女がいる。町の弁当屋の娘で32歳。ろくに店を手伝わないでダラダラと過ごす毎日。生きているのさえ面倒くさそうな。今、妹が息子を連れて出戻っているが(名前は二三子)、いつも大喧嘩だ。ケチャップを頭の上からかけら…

天気の子

雨の音から始まる。少年のモノローグ。 これは、僕と彼女だけが知っている、世界の秘密についての物語だ― 離島から家出してきた16歳の少年、帆高。彼が東京で出会ったのは、降りやまない雨、16歳では働かせてもらえない現実、夜を過ごしたマックでアルバイト…

こどもしょくどう

昼は定食屋、夜は居酒屋になるような下町の食堂。小学5年のユウトは草野球チームの練習から帰ると、友達のタカシと一緒に夕ご飯を食べるのが日課だ。タカシは母親と二人暮らしで、夕飯を準備してくれないことが多いのだ。 タカシは体は大きいが、動作がのろ…

夜明け

遠い空で明るみ始めた山間の空気が青っぽく見えるのはどうしてだろう。一人の若者がふらふらと歩いてくると、橋の欄干によりかかり苦し気に息を吸い込む。手には花束。立っているのが辛いように、何度も顔を歪める。若者の、夜が終わろうとしている。 川の岸…

こんな夜更けにバナナかよ

車いすに座った男が、周囲の人たちに命令口調で指示を出す。水が飲みたい、背中がかゆい、寝たい、起きたい、横向きたい…。そこまで言っていたか記憶にないがそんな感じ。周りの動きが自分の意に染まないと、容赦なく叱責を飛ばす。男は鹿野靖明34歳。筋ジス…

日日是好日

家族でフェリーニの「道」を見に行った。小学校5年だった。典子は何がいいか、さっぱり分からなかった。しかし、 「世の中には『すぐわかるもの』と、『すぐわからないもの』の二種類がある。すぐにわからないものは、長い時間をかけて、少しずつ気づいて、…

教誨師

狭い密室にふたりの男が机をはさんで対峙している。一言も発さず静かに目を閉じている男は死刑囚、もう一人はキリスト教の教誨師のようだ。教誨師は宗教の教義に基づいて、被収容者と対話を重ねる。ある人は自らの身の上を語り、ある人は刑務官の愚痴を言い…

ハナレイ・ベイ

仕事が忙しくなかなか映画を見ることが出来なかった。久しぶりに見たのが村上春樹原作の「ハナレイ・ベイ」だった。 ハワイ・カウアイ島のハナレイ湾。美しい入り江の風景は、フラの曲にもたびたびうたわれているという。早朝、日本人の青年がサーフボードに…

万引き家族

スーパーに入ってくる親子。互いに合図しながら店員の目を盗み、息子の方がかばんに商品を入れてゆく。うまくいくと帰りに商店街で温かなコロッケを買う。寒い時期の物語だ。ふと見るとアパートのベランダに凍えるように女の子が座っている。昨日も見たと父…

友罪

ある町工場に、二人の若者が新入りとして入ってくる。元週刊誌記者の益田と、工場を転々としているらしい鈴木。二人は、会社の寮となっている一軒家に先輩社員と暮らし始める。益田は先輩たちともそつなく付き合うが、鈴木は愛想が悪い。部屋がとなり同士の…

オー・ルーシー!

混みあった駅のホーム。さえない年配のOLが所在無げに電車を待っている。うしろから若い男性が何かを耳打ちすると、ホームに入ってくる電車に飛び込む。呆然とする女性、節子。出勤すれば自分よりさらに年配の女性が、興味深げに聞いてくる。しかし日常は変…

三度目の殺人

暗い川の岸辺にふらふらと歩く男。うしろから歩く男が不意にスパナを振り下ろす。顔にわずかな返り血を浴びた男は横たわった死体に火をつける。見下ろす顔が炎の照り返しに明るんで見える。今男は殺人を犯したのだ、とそう見える。普通に考えれば。 男は三隅…

幼な子われらに生まれ

モザイクに色分けされた画面。その上を、人の足が踏みつけてゆく。色分けされた地面は遊園地の入り口だ。父と娘が手をつなぎ入ってゆく。楽しげに遊ぶ二人。よくあるシチュエーションなので、離婚した父親が、別に暮らす娘と定期的に会う日だと分かる。それ…

彼女の人生は間違いじゃない

薄もやの桜並木の向こうからヘッドランプが近づいてくる。やがて車が現れると、防護服に身を包んだ人たちが降りてくる。原発関係の作業員のようだ。そこでカットが切り替わる。どこかの町の空撮。小さな部屋で目覚める女性。冷蔵庫から水を飲むと、炊けたば…

ある会議室。モニターを見ながら映像を言葉にして語る女性、尾崎美佐子。目の見えない人に映画を楽しんでもらうための音声ガイドだ。映画が終わると、その場にいた視覚障がいを持つ人たちが、ガイドの内容について意見を言う。目が見えない立場で、映画を楽…

夜空はいつでも最高密度の青色だ

青森だったか、在来線の列車の窓から夕暮れの空を眺めていた。白い雪原の上の空はよく晴れ渡り、青色は時間がたつにつれてどんどん濃くなってゆく。このタイトルを見て思い出したのはその光景だった。青と黒のグラデーションはとても幻想的だったが、駅に着…

彼らが本気で編むときは、

小さなアパートの一室、洗濯物をたたみ終わると、テーブルに置いてあるコンビニおにぎりを食べる女の子。11歳のトモ。夜中に帰ってくる母親は酔って吐きながら眠ってしまう。いつものことなのか、寝起きの母親を残して学校に行く。しかしやがて母親は帰って…

沈黙 -サイレンス-

長崎、雲仙。熱湯の温泉を体に浴びせられる外国人たち。肌が赤く灼け呻き声が地に満ち、地元で地獄と呼ばれる風景がまさにそこにある。江戸のはじめ、キリシタン禁制の時代に日本に来た宣教師たちだ。 多くの宣教師は拷問の末殉教するか、または棄教した。そ…

聖の青春

満開の桜の公園の片隅にゴミに交じって一人の男が倒れている。棋士、村山聖25歳。この時七段。誰かに抱えてもらわないと対局場にも行けぬほどに体が弱ってしまっている。座っているのもやっと。しかし将棋を指すという情熱が彼の体を支えている。 村山聖(さ…

この世界の片隅に

とても漫画チックな?絵柄にも関わらず、ひとりの女性の半生を確かに見た、そんなどっしりとした印象がある。 昭和19年、広島市内から呉に嫁いできたすず、18歳。段々畑の中腹にあるその家からは、呉の軍港が見下ろせる。夫は海軍の書記官。やさしい義理の両…

永い言い訳

妻に髪を切られながら毒づく中年男が映し出される。小説家の津村啓。彼は、妻が客の前で本名の「さちおくん」と呼ぶのが気に入らない。「面子が立たない」という。彼の本名は、衣笠幸夫。広島カープ往年の名選手衣笠祥雄と同姓同名だ。それが長く彼の人生に…

淵に立つ

止め忘れたオルガンのメトロノームが感情をざらつかせる。時の流れは味方にならない、と映画は最初に告げている。 山形のとある町で零細な工場を営む鈴岡のもとに、古い友人が訪ねてくる。刑務所から出てきたばかりの八坂だ。二人は何か因縁があるらしくその…