ストーリーはいたって単純。大学生たちが、図書館に保管されている12億円もの希少本を盗み出そうと決意し、実行に移すまでの物語。だが、みな根はまじめ(?)で、こんなことに慣れてないものだから、あらゆる段階で珍妙なすったもんだが起きる。これは実話だそうだ.
ケンタッキー州トランシルヴァニア大学。この大学の図書館に保存されているのは、19世紀の博物学者ジョン・ ジェームズ・オーデュボンの「アメリカの鳥類」。何と縦1mもある巨大な本で、北米に棲息する実物大の鳥たちの博物画集である。図書館では見学ツアーが行われており、値段を聞いた学生のスペンサーは友人のウォーレンと盗み出す計画を立てる。
スペンサーは画家志望だ。ウォーレンに言う。
「特別なことが起きるのを待っているんだ。でもそれが何かがわからない。」
特別なことは自分で起こせばいい-。2人は綿密な(?)計画を立てる。図書館司書を動けなくして盗んだ後は地下室から外へ出ればいいのだ。さらに2人の仲間を加えて老人に変装し、図書館に向かうのだが…。
監督は、ドキュメンタリー映画に実績のあるバート・レイトン。長編ドラマとして初の監督作だ。
「そもそもなぜ恵まれた環境の教養もありそうな若者たちがそんな犯行に及んだのか、その謎を解きたいと思った。長年ドキュメンタリーで培われた直感から、関係者と接触することを考えた。」
映画は実際の4人がインタビューで登場する。4人の記憶がこの作品のベースになっているのだが、事実関係の認識に違いがあれば、その違いを違いのまま作品に表わそうと試みる、ちょっと変わった映画だ。本人が、自分を演じた役者から問いかけられる、というユニークなシーンもある。
スペンサーとウォーレンは、とにかく特別な人間でありたいと焦っている。特に金持ちの家庭に生まれたわけでもない、特別な才能があるわけでもない。とすればあとはリスクを冒してお金を手に入れる、というのが特別な人間の在り方らしい。
そのお金で何をするかという話が一切出てこないので、おそらく単に刺激が欲しかっただけだと推察するがどうだろうか。犯罪映画の登場人物に自分をなぞらえ自己陶酔しているのだ。だが監督が実際の4人に話を聞いたところ、驚くべきことを4人とも答えた。
刑務所で暮らした最初の2年間が、4人とも「自分たちの人生で最高の時間だった」というのだ。なぜか。
「自由だったから。両親や教師たちのあらゆる期待から自らを解き放つことができたからだ」
と言う。
家族は息子が特別であることをそこまで期待するだろうか。もしそうならそれこそ特別ではないか。これは「両親や教師たちのあらゆる期待」ではなく、「自分自身が自分にかける期待」の間違いではないのか。期待を錯覚する他律的な生真面目さが、少し哀しくさえある。
監督・脚本:バート・レイトン
主演:バリー・コーガン、エヴァン・ピーターズ
アメリカ・イギリス 2018 / 116分
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