映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

ラスト・ムービースター

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古いテレビ番組に、デビューしたての俳優バート・レイノルズが出演しインタビューに答えている。オーディションを受ける際にいろいろ失敗したが、それでも合格した、というような話。自信に満ち溢れ未来が輝くとはこういう感じか。

 

次のカットは現在のバート・レイノルズ(役名はヴィック・エドワーズ)の正面の顔。年齢相応の皺。白髪。半世紀以上の時が流れた。かつて思い描いた輝かしい未来は長く続かなかった…、らしい。今は年老いた愛犬と暮らすさみしい生活だが、その愛犬も病気のため安楽死させることになってしまう。

 

これはドキュメンタリーではないが、名優と言われたバート・レイノルズ自身の半生とシンクロさせながら晩年の彼の境遇と思いを伝えている。

 

それにしてもずいぶんと残酷じゃないか、と思ってみていると、「国際ナッシュビル映画祭」から特別功労章受章の知らせが届く。ロバート・デ・ニーロやジャックニコルソンにも贈られた賞で、映画祭にぜひ出席してほしいという。最初はゴミ箱に捨てていた招待状だが、ヒマを持て余し参加することにする。

           

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ところが参加した映画祭は、地元の映画ファンによる手作りの映画祭で、とにかくお金がない。そのために生じる様々な不便、飛行機はエコノミークラス、迎えはボロ車、宿泊は安いモーテル、がヴィックには気に入らない。プライドが許さないのだ。そして小さなパブの舞台に登壇したヴィックはこう言ってしまうことになる。

 

「ハリウッドはあっという間にスターを作る。だが干すときはそれ以上の速さだ。」

 

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監督・脚本はアダム・リフキン。アメリカの監視カメラ社会を描いた「ルック」が2008年日本で公開されている。バート・レイノルズは2018年9月に亡くなり、これが遺作となった。なんとも運命的な作品だ。

 

かつてスーパースターだった彼のキャリアの空白や、それによってもたらされた苦悩がどのようなものだったか想像もつかないが、人生の最後にこのような作品が作られるということはとても幸せなことじゃないかと思う。監督はおそらくここに出てくる映画オタクたちのように、バート・レイノルズの映画に熱狂し、その記憶によって人生を励まされてきたに違いない。監督も同じく幸せな人なのだ。

 

翌日、ヴィックは出席を断って帰ろうとするが、生まれ故郷が近いことを知って車で向かうことにする。運転手は映画祭の主催者の妹で、浮気な彼との恋愛に悩むリルだ。リルはヴィックが大スターだったなんて知らないし早く空港まで送って帰りたいのだが、しぶしぶ付き合う羽目に。しかし過去の時間を遡る二人の珍道中は、やがてヴィックの何かを変えてゆくことになる。                  

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作中で特に記憶に残る一言があった。手作り映画祭で登壇したヴィックは、大ヒットした映画のオファーを何度も断ったことを聞かれこう答える。

 

「選択ミスだった」

 

実際のバート・レイノルズは、ジェームスボンド役やハンソロ役を断ったという。もし受けていたらもっと輝くスター街道を歩めた、かもしれない…。しかしそれはミスだったのだろうか。事実彼がそう考えているとしたら悲しいことだなと思う。彼はありえた別の人生を選ばなかっただけだ。自身が選んだ人生を歩み、今この映画に出演しているのだ。

 

その意味で故郷への旅は、彼が犯してしまった本当のミスは何かに気づいてゆく旅だ。ヴィックは再び映画祭の舞台に登壇してこう語る。

 

「名プロデューサーのメラヴィーン氏は言った。“第2幕でぶざまな演技をしても第3幕が良ければ客は忘れる”。私の第1幕はひどかった。第2幕はおろか代3幕の大半もダメだった。捨て鉢だったよ。だが皆さんに救われた。」

 

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人生には上り下りの波があると思う。その途中のどこで終わるか、誰にもわからない。バート・レイノルズがこの映画を撮る前に亡くなっていたら? あるいはあと何本か撮っていたら? そのどちらでもない、いたずらな奇跡のような作品である。

 

監督・脚本:アダム・リフキン
主演:バート・レイノルズ、アリエル・ウィンター
アメリカ  2018 / 103分

公式サイト

https://lastmoviestar2019.net-broadway.com/