映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

セイント・フランシス


とあるパーティーで自分の見る夢を語る男性。窓から飛び降りて自殺する夢。つまらなさそうに聞いている女性は、


「なぜ飛び降りるの?」

と聞く。

「もう34歳だぜ。このままじゃ終わりだよ」

男性は、彼女も34歳でウェイトレスをしていると知ると離れていってしまう。しかしそのあとに声をかけた男性とはうまくいったようだ。次のシーンは自宅でのセックス。しかし翌朝、生理が途中で始まっていたことに気づいて大慌てする…。

 

女性の名前はブリジット。大学中退で独身、仕事もパッとしない。ようやく、6歳の少女、フランシスの子守の仕事を得る。女性の同性カップルの子どもだが、ひとりは仕事が忙しく、ひとりは新たに子どもが出来るため、フランシスの面倒を見てほしいという。

 

このフランシスがなかなか手ごわい。外出していて、言うことを聞かないため腕を引っ張っていると、「この人は親ではありません」と叫び出す始末。ブリジットは警察官と一緒に帰宅する羽目に。

 

そんなある日、パーティーで知り合った男性との間で妊娠が発覚する。交際しているつもりが全くないブリジットは、何の迷いもなく中絶を決めるが…。

 

監督はアレックス・トンプソン。脚本はブリジットを演じたケリー・オサリヴァン。初の長編映画の脚本だという。

「20代のうちはもがき苦しむことは想定内だし、祝福すらされること。30代だと、『急いだ方がいいよ』って言われる。…30代になると、周りの人が当然のように期待してくるものがあるし、成功していることも期待される。それはつまりキャリア、結婚、子どもがいるかどうかということ。ブリジットはそのどれも持っていなくて、…出来損ないのように感じる。これはもっと掘り下げて語られるべきことだと思う。」(ケリー・オサリヴァン

 

 

等身大とはこういうことをいうのか。ごくごく普通の34歳。特に何かを頑張るでもなく、周りと比べて焦ることもあるが、急ぐことはしない。狙った男性はゲットするところを見るとモテないわけでもないが、本気の交際は面倒だと思ってしまう。だが不思議と見ていると応援したくなる。そのうまく行っていなさ加減が自然だからか。

 

ブリジットの中絶は、相手の男性に大きな感情の揺れをもたらした。そのことをあえて無視するブリジット。しかし、フランシスの親の産後うつなど、子どもを持つこと(親になること)で生まれるさまざまな出来事や葛藤を目撃し、次第にブリジットを揺らしてゆく。そして、相手の男性に電話をかけ留守録に吹き込む。

 

「共同作業って言うけれど、体を張ってるのは私だけ。私にも感情はある。」

 

 

映画の終盤、生まれた子どもの洗礼の日、フランシスを探して告解の部屋に入ったブリジットは、牧師の席にフランシスを見つける。ふざけて告解の真似をするブリジットとフランシス。しかしブリジットはやがて他人事のようだった自分について語り始める。

 

「結婚もせず、華やかな職業にもつけない、・・・立派になりたい」

 

しかしフランシスは、ある事件でのブリジットを指して、「立派だったよ」と言う。この時フランシスは聖フランシスになる。人はいつも子どもの目によって裁かれ許されるのだ。

 

 

監督:アレックス・トンプソン

脚本:ケリー・オサリヴァン
主演:ケリー・オサリヴァン、ラモーナ・エディス・ウィリアムズ
アメリカ  2019 / 101分