映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

LOVE LIFE

何気ない日常の中にある、深い穴。思いもしない偶然によって、そこに落ちてしまう人間たちは、自らの内に秘めて来た感情をさらけ出す―。

 

団地に住む妙子(木村文乃)は、この日4歳の息子敬太がオセロ大会で優勝したことで、お祝いパーティーの準備をしている。同時に義理の父親の誕生日。再婚相手の二郎(永山絢斗)とサプライズを考えていた。

 

義理の父親は、連れ子のいる妙子との結婚に大反対。趣味の釣り道具の話から、

 

「中古でもいいものと悪いものがある」

 

と言い出す始末。そこまで言うかと思うが、義理の母親も

 

「早く本当の孫を見せて」

 

と容赦ない。さすがに妙子は気色ばみ、その言葉(中古)を取り消してくれと言う。少し感情の鎮まった義父は謝るが、亀裂は残ったままだ。

 

サプライズで機嫌を直し、カラオケに興じる義父が朗々と演歌を歌う中、ひとり風呂場で遊んでいた敬太は足を滑らせ、捨てずに残っていた水で溺死してしまう…。

 

 

監督は、「淵に立つ」の深田晃司矢野顕子の「LOVE LIFE」を20歳の頃に聞き、「この歌を最高のタイミングで映画館に流したい」と考え続けてきたという。

 

どんなに離れていても

愛することはできる

心の中広げる やわらかな日々

すべて良いものだけ 与えられるように

―LOVE LIFE―

 

もうなにも欲しがりませんから

そこにいてね

ほほえみ くれなくてもいい でも

生きていてね ともに

 

この曲を聞いて構想したのは、深田晃司の世界そのものだ。

 

「この作品に限らず、映画を作るときに一貫しているモチーフは個の孤独です。…家族であっても、夫婦であっても、友だちであっても、本当のところは、隣にいる人が何を考えているのかなんて分からない。想像しながら、騙し騙し生きていくしかない。その感覚を映画に残すことが出来たら自分では成功だと思っています」

 

 

葬儀の日、打ちひしがれる夫婦の前に、妙子の前の夫で敬太の生みの親、パク・シンジ(砂田アトム)が現れる。感情がおさえきれないシンジは、敬太の死に顔を見るや妙子を力任せに殴りつける。周囲がシンジを止めるなか、妙子が号泣する。それは事故以来泣くに泣けなかった妙子の感情のほとばしりだった。

 

シンジは妙子と敬太を捨てて出て行ったあと、公園でホームレスをしていた。役所に生活保護の申請に訪れたシンジを、福祉事務所で働く妙子が助けることになる。韓国手話でしか話せないシンジの通訳として妙子が必要だったのだ。ここからかつて夫婦だった二人が再び親密さを取り戻してゆく。

 

木村文乃の演技がうまいのだろう、今の夫二郎といるときと、かつての夫シンジといるときの空気感が全く違って見える。一言で言えば二郎とはよそよそしく、シンジには全て委ねているような。

 

二郎は言う。

 

「いつからだろう。僕らが目を見て話さなくなったのは」

 

 

映画の終盤で、妙子はシンジをめぐっていくつもの選択を繰り返す。そのたびに二郎は翻弄されるが、妙子に翻弄されているのは案外、妙子自身なのかもしれない。私たちは「隣にいる人」どころか、自分自身のこともよく分からないでいるのだ。

 

矢野顕子の歌の最後はこう締めくくられる。この歌の「あなた」とは誰か?映画に当てはめてみると、妙子の最後の選択が揺れ始める。そんな戦慄がある。この曲が流れるのは映画のラストカット。「最高のタイミング」とはそういうことなのか。深田監督の底知れない闇を思う。

 

永遠を思うときに

あなたの笑顔 抱きしめる

かなしみさえ よろこびに変わる

―LOVE LIFE―

 

監督・脚本・編集深田晃司
主演:木村文乃永山絢斗、砂田アトム
日本  2022/ 123分

映画「LOVE LIFE」公式サイト (lovelife-movie.com)