映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

天気の子

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雨の音から始まる。少年のモノローグ。

 

これは、僕と彼女だけが知っている、世界の秘密についての物語だ―

 

離島から家出してきた16歳の少年、帆高。彼が東京で出会ったのは、降りやまない雨、16歳では働かせてもらえない現実、夜を過ごしたマックでアルバイトの女の子がくれたハンバーガー。やがて小さな編集プロダクションに住み込みで働くことになるが、月給はなんと3000円。

 

それでも生活が落ち着いた帆高は、ある時ハンバーガーをくれた少女、陽菜と偶然再会する。彼女はとても不思議な能力を持っていて、彼女が祈ると、どんなに雨が降っていても空が晴れ渡る。帆高はこの能力を、晴天を望む人に売ることが出来ないかと思いつく。

 

やがて100%晴女のうわさは広まり、注文が殺到。大喜びする二人。しかし、この能力を持つ者にはある哀しい秘密が隠されていた…。                                    

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監督は新海誠。今大ヒットしているようで、満員の映画館では10代らしき若いひとたちがほとんどだった。前作「君の名は。」も大ヒットしたが、批判も多かったという。

 

「切実な祈りの物語として描いたつもりの『君の名は。』が、タイムスリップで過去の災害をなかったことにする許しがたい物語、と評されることもありました。そういう経験を繰り返すうちに、彼らをそれほど怒らせたものの正体を知りたいという気持ちがだんだん強くなってきたんです。」

 

そこで新海監督が選んだ方法は、調和を取り戻す物語を描かないことだった。

 

「思いついたのが、主人公である少年が『天気なんて、狂ったままでいいんだ!』と叫ぶ話だったんです。そのセリフが企画書の最初の核になりました。やりたかったのは、少年が自分自身で狂った世界を選び取る話。別の言い方をすれば、調和を取り戻す物語はやめようと思ったんです。」

 

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異常気象の世界で天気を晴にする能力を使うたびに、陽菜の体は失われていく。やがて陽菜は人柱となって天上の世界に連れ去られるが、引き換えに世界は元通りの姿を取り戻すことになる。しかし、そのことを許せないのが帆高だ。陽菜を天上から救い出すべく、ある場所へと向かう…。

 

陽菜を取り戻すことは、結果的に異常気象の世界へ逆戻りすることになる。つまり調和のない世界だ。物語の定型からはずれ、観客はカタルシスを得難いかもしれない。それは新海監督のストーリーテラーとしての挑戦だった。

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帆高は、自分たちが世界を変えたのだと、何度も語る。もし、この物語によって新しい世界が生み出されたとしたら、その世界は、誰か特定のひとを犠牲にして成り立つことを拒否する世界だ。誰かとは、特殊な能力を持つ人という意味ではない、社会にうまく適応できない人を含め、あらゆる意味での少数派。

 

そのことは厳しい現実を突き付けてくるかもしれない。しかし、その選択の結果を潔く引き受けようという覚悟を映画は伝える。帆高の行為と結果は、映画のなかでは2人しか知らないことだが、この映画を見る何百万もの人々がこれを受け取り、世界を変えてゆく、そんな監督の願いと信頼を感じる。

 

時々、脚本が荒く、ん?と思う瞬間もある。しかし、物語の勢いがそれを上回る。これは真摯な思いが世界を変えることができるということにおいて、少年少女に向けたアニメであり、世界を変えた(あるいは変えなかった)結果を引き受ける覚悟において、オトナの映画である。

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原作・脚本・監督:新海誠
音楽:RADWIMPS

日本  2019 / 110分

公式サイト

https://tenkinoko.com/