ポルトガル、夏の終わり
ポルトガル、シントラ。ホテルのプールサイドにひとりの女性が降りてくる。誰もいないプールで水着をとって泳ぎ始める。イザベル・ユペールだ。高校生くらいの女の子がやってきて、
「写真を撮られるよ」
というが、
「私は写真映えするからいいわ」
と気にしない。
美しい海と歴史を刻んだ建物。街そのものが世界遺産であるシントラ。イザベルが演じるフランキーは、ヨーロッパを代表する老女優だ。夏の終わりに、彼女はここに家族や友人を呼び寄せた。ある目的をもって。
シントラにやってくるのは、息子のポール、義理の娘のシルヴィア、メイクアップアーティストのアイリーン、元夫のミシェル。イザベルが若く年齢不詳に見えるためか、だれが夫なのか息子なのかわかりづらいという難点がある。だがやがて、それぞれの関係性が見えてくると、不可思議な人生模様が浮かび上がってくる…。
監督はアイラ・サックス。
「僕は群像劇の映画に惹かれます。ストーリーを広げることで、19歳でも65歳でも、観客に多くの共感ポイントを提供できると感じています。本作は、中央に軸がある群像劇と言えるかもしれません。そして、人生の異なる様々な段階のカップルたちの映画ですね。ファーストキスをしたばかりの人もいるし、結婚を終わらせることを考えている人もいます。そして、人生のパートナーを失う危機に直面している人も。」
フランキーはまだ結婚していない実の息子を案じ、仕事仲間でよき友のアイリーンと結びつけようとする。それが旅の大きな目的だった。実はフランキーは病に侵され、死を宣告されているのだ。
「残された時間で 家族を幸せにしたい」
とフランキーは言うが、アイリーンはここに恋人と一緒に来て、この場所でプロポーズをされる。
シントラの街に家族と友人が集まるたった一日の物語だ。監督の言う「中央の軸」とはもちろん、老女優のフランキーだ。フランキーは女優として成功し、人生を謳歌してきたかにみえる。元夫のミシェルは、
「フランキーの後は、物事が変わる。人生が変わるんだ」
とまで言う。が、ままならないこともある。多くの無名の人と同じように。
夫や息子とのやり取りを通じて、そうした彼女の人生の一端を想像できる。それは想像にしか過ぎないのだが、想像だけにとどめておく、という監督の距離の取り方が一貫していて節度がある。
映画の終盤で、フランキーは思いもかけない場面に遭遇する。それは自分の死後、親しい人々がどのように生きていくか、という想像を裏切るものだったが、それゆえにあたたかな希望を感じさせるものだった。
そのあとのフランキー(イザベル・ユペール)の表情の長回しがいい。長く生きてきたひとりの女性の、人生に対する愛惜と諦観。このカットだけでもこの映画を見る価値があると思う。
監督・脚本:アイラ・サックス
主演:イザベル・ユペール、マリサ・トメイ、ジェレミー・レニエ
フランス・ポルトガル 2019 / 100分
公式サイト