映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

香川1区

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去年10月の衆議院選挙。激戦区と言われた四国香川1区を制するのは誰か?この映画は、立憲民主党から立候補した小川淳也(50)に焦点を当て、4カ月間の選挙戦を追ったドキュメンタリーである。

 

香川1区は自民党平井卓也氏(63)の牙城である。3世議員で、地元シェア6割という四国新聞西日本放送のオーナー一族だ。対する小川は特に地盤があるわけではない。東大卒のエリート官僚だったが、日本を変えたいという熱い正義感で政治家になった。しかし2003年の初出馬から15年間で1勝5敗。負け続けである。

 

ただ今回は、その年の4月平井氏がNECに対して「脅しておいた方がいい」と発言したなどのスキャンダルがあり、小川氏に追い風が吹いていた…。

 

監督は大島新。2019年、小川淳也を17年にわたり撮影し、『君はなぜ総理大臣になれないのか』を制作し話題を呼んだ。自分が投票した候補者はなぜ当選しないのか、という疑問から映画を制作したというが、これはいわばその続編で、今回は相手が焦っている分だけその見たくもない裏側がよく見えしまったという結果となった。

 

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取材の中で、平井氏に期日前投票したことを確認する作業が行われていたり、平井氏の演説を撮影しているプロデューサーに、警備員が「選挙妨害だ」と因縁をつけて詰め寄ったり(映画の撮影班は小川陣営と認識しているのだ)、こんなことが今でも、ということが次々に明らかになる。

ただ小川氏もいつもの通り?いっぱいいっぱいの様子。自民党と一騎打ち、と思っていたところへ直前になって維新が候補を擁立するや、焦った小川氏は候補者に直談判し取り下げて欲しいと要請するのだ。それがネットで悪意を持って取り上げられると、大きなバッシングが起きてしまう。

 

心配した政治評論家の田崎史郎氏は事務所に顔を見せ、要請することが間違っているというと、小川氏は勢い込んで「何がおかしいかわからない!」と怒りをあらわに。野党候補を統一しないと自民党は倒せないという大義名分なのだが、自分の票が食われるという恐れも感じたに違いない。映画の最後に大島監督が苦言を呈するが、彼の危うさが露呈した出来事だった。


ただ人柄はとてもいい人に見える。長女はインタビューにこう語っている。

「(父は)アンチの人の意見だからといって、その人の話を聞かないことは絶対無いです。なんかお困りですか?と言って最後まで、時に涙を流しながら聞くと思う」

 

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平井候補は一つ正しいことを言っていた。政治家の評価は結果において決まる、と。この映画を見ていると、彼自身の誠実さを疑いはしないが、次のことがずっと頭から離れなかった。美しい理想や美しい言葉が、結果的に悲惨な現実をもたらした例はいくらでもある。また、熱い正義感が誰かを傷つけることがある―と。だから大島監督も最後に言ったのだろう。候補者本人にしか見えない風景もあるが、本人だから見えない風景もあるのだと。

ただ彼には、この誠実さに投票してみたいと思わせる魅力がある。もしかすると私たちはよく知らないだけで、誠実さと熱意にあふれたこういう政治家が全国に何人もいるのかもしれない。最後に映し出された有楽町の街頭での対話集会で、香川1区で起きたことははやがて日本全国に起きると言った人がいた。何党とか関係なく、そうであればいいのにと思う。

 

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監督:大島新
撮影:高橋秀典

プロデューサー:前田亜紀
日本  2021 / 156分