映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

ドキュメンタリー

国境の夜想曲

古い城のような建物の中、頭にスカーフを巻いた女性たちが歩いてゆく。ある部屋の一室から女の嘆きの歌が聞こえる。息子をこの部屋で亡くした母親のようだ。 お前の気配をここに感じる… かつてここは牢獄だったのだろう。母親が見つめる写真はひどい拷問を受…

香川1区

去年10月の衆議院選挙。激戦区と言われた四国香川1区を制するのは誰か?この映画は、立憲民主党から立候補した小川淳也(50)に焦点を当て、4カ月間の選挙戦を追ったドキュメンタリーである。 香川1区は自民党の平井卓也氏(63)の牙城である。3世議員で、地元シ…

世界で一番美しい少年

ある老俳優が廃墟の中を歩く。その後ろ姿を追いかけるカメラ。男が世界を席巻した時代に享楽を尽くした建物だ。その禍々しさがひとりの俳優の人生を暗示する。 かつて「ベニスに死す」という映画で、「世界で最も美しい少年」と言われ、世界中の話題を集めた…

行き止まりの世界に生まれて

早朝。立ち入り禁止の廃墟ビルに侵入する若者たち。だが、底が抜けたようなスカスカの非常階段を上っていくうち、ひとりが怖くなってやめようと言い出す。死にたくないからな―。するとみんな同意して降りてゆく。なんとも締まりのないオープニングだが、その…

人生をしまう時間

埼玉県新座市。とある病院の二人の医師が、終末期を家で暮らす患者を訪問診療している。その半年余りに及ぶ記録である。 「帰りたい。どんなぼろい家でもね」 91歳のおばあちゃんがそうカメラに向かって言う。古い日本家屋に戻ってきたその冨子さんの最期の…

"樹木希林"を生きる

昨年亡くなった樹木希林の最後の一年間に密着したドキュメンタリー。樹木希林はその死の1年あまり前から4本の映画に出演することが決まっていた。この映画には、病を抱えながら女優として人生を全うしようとする樹木の最後の姿が映し出されている。 監督はN…

ニューヨーク公共図書館  エクス・リブリス

どこかホールのようなところで、聴衆を前に話をしている。「利己的な遺伝子」の著者ホーキンス博士だ。歯に衣着せぬ辛辣な物言いに聴衆が笑いにつつまれる。ここはマンハッタンにある「ニューヨーク公共図書館」。「午後の本」という図書館のトーク企画で、…

眠る村

一本の長い山道が、とある小さな村への入り口である。三重と奈良の県境にある、葛生だ。 昭和36年、この村で事件が起きた。懇親会の席で出されたぶどう酒に毒が入れられ、5人の女性が亡くなった。名張ぶどう酒事件である。事件から6日後、村に住む奥西勝が逮…

ニッポン国VS泉南石綿村

2015年4月、大阪府泉南市で「泉南石綿の碑」の除幕式が行われている。この地域は明治の終わりから100年にわたって石綿紡織業が地場産業だったという。 資料写真を背景に監督の原一男がナレーションで説明している。石綿は耐火性や耐久性に優れ安価で生産され…

願いと揺らぎ

観音像のように見える枯れ木が一本、海沿いの集落に立ちすくんでいる。その集落は津波に洗われ、ほとんどが流されてしまった。ひとりの老婆が何もかもなくなった場所で、かつてあった自宅を案内する 「あそこがお勝手口、…ここが玄関か…」 宮城県南三陸町、…

We Love Television?

深夜の住宅街。車の中である男の帰宅を待つ。帰ってきたのは欽ちゃん、萩本欽一だ。待っていた金髪の中年男は「大将!」と声をかける。驚いて振り向く欽ちゃん。 「もう一回視聴率30%の番組を作りましょう!」 というと、 「うわぁ、こんなにうれしい話をす…

ギフト 僕がきみに残せるもの

カメラに向かって語りかける男。背後にベビーベッドが見える。 「6週間後 あのベッドに きみがやって来る このビデオを撮るのは僕がどんな人間か きみ分かってもらうため できるうちに たくさん僕の姿を残しておくためだ」 男は元アメリカンフットボールのス…

ぼくと魔法の言葉たち

アメリカ、マサチューセッツ州。プライベートなホームビデオが映し出される。ありふれた親子。しかし…。 3歳になる頃 オーウェンは突然消えた 自閉症だと医者は言った 一生話せないかもしれない、と医者は続ける。失意の家族。しかし転機は6歳の時に訪れる。…

海は燃えている 

地中海。イタリア最南端の島、ランペドゥーサ島。海岸沿いの松の木が低い枝を四方に長く伸ばしている。11歳の少年サムエレは枝の錯綜する頭上に小鳥を探している。やがて小さな枝を折るとナイフで削り始める。パチンコを作るのだ。 サムエレは友だちにパチン…

人生フルーツ

愛知県春日井市。高蔵寺ニュータウンの一隅に、とても小さな雑木林がある。モミ、カエデ、ナラ、シイ、ケヤキ…。林の中を覗いてみると、その奥にはキッチンガーデンが広がる。野菜70種、果物50種。そしてぽつんと平屋建ての家屋。ここに住んでいるのは津端修…

湾生回家

湾生とは、戦前台湾で生まれた日本人のことを言うらしい。日清戦争で台湾を得た日本はその後50年にわたってこの島を支配した。その間多くの日本人が海を渡り、多くの日本人がかの地で生まれた。しかし、敗戦後彼らの多くは本土に送還された。その数20万とい…

いしぶみ

暗闇の中、綾瀬はるかの朗読が静かに始まる。背後に古びた金属のような壁がある。その壁には中学生になったばかりの子どもたちの姿がぼんやりと映し出される。広島二中一年生たちである。昭和20年8月6日、生徒たちは建物解体作業のため朝早く本川の土手に集…

FAKE

「あなたの怒りではなく、あなたのかなしみを撮りたい。」 監督の森達也氏は映画のはじめにこう告げる。相手は佐村河内守氏だ。全聾の作曲家を自称していたが、実は別の人間に作曲させていたことで大きな騒動を巻き起こした佐村河内守氏。世間からバッシング…

牡蠣工場

岡山県瀬戸内市牛窓。牡蠣の名産地である。港の近くの作業場では、牡蠣の殻を剥くために何人もの人を雇っている。毎日毎日、いったいいくつの牡蠣を剥いているのだろう。気が遠くなるようだ。しかし、町は過疎で後継者もおらず人手が足りない。中国からの出…

光のノスタルジア

南米チリ。北部に広がる荒涼としたアタカマ砂漠。ここに「過去」を求めて人々が集まる。「過去」の痕跡を探す考古学者、宇宙の光をとらえる天文学者、この地で肉親を亡くした女性たち…。人々はそれぞれのやり方で「過去」に向き合う。遠い「時間」のかなたに…

沖縄 うりずんの雨

うりずんとは、沖縄で春分から梅雨に入る時期までのこと。「潤い初め(うるおいぞめ)」が語源であるらしい。70年前のうりずんの季節に沖縄戦が行われた。沖縄では今もこの時期になると当時の記憶がよみがえり、体調を崩す人たちがいるという。 映画は、沖縄…