映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

ドライビング・バニー

信号待ちの車のフロントガラスを磨いて小銭を稼ぐ―。手慣れた仕草で踊るように磨いていくバニーはシングルマザー。ただし二人の子どもに会えるのは限られた日数だけのようだ。子どもは里親に預けられ、自分は妹の家に居候している。

 

幼い娘シャノンの誕生日はもうすぐだが、住む家がないため娘をよんで祝ってやることが出来ない。誕生日には家によんで、プールにも入れてあげると約束したのに。困ったバニーは、妹の家のガレージに住まわせてくれないかと頼み込む。

 

これで約束が果たせると上機嫌のバニーだが、ガレージで妹の再婚相手ビーバンが妹の娘を車に連れ込んでいる様子を見てしまう。身もだえし絶望するバニーだが、彼女にとって選択肢はひとつ。ドアをけ破って、ビーバンをひきずりだすのだ。

 

ビーバンは、

 

「これが住まわせてやった人間に対する仕打ちか!」

 

と逆切れ。バニーを追い出してしまうが…。

 

 

監督はゲイソン・サバットニュージーランド在住の中国人監督で長編デビュー作。妹の娘トーニャを演じたト―マシン・マッケンジジーは、

 

「主人公は女性で、監督も撮影監督も編集者もプロデューサーもみんな女性だった。背景にある女性のパワーに魅力を感じた」

 

と語っている。

 

妹の家を出たバニーは、車の窓ふき仲間の家にお邪魔したり、野宿したり。知恵を働かせては、なんとか住む家をゲットしようとするが、ことごとく失敗してしまう。娘の誕生日が迫って焦るバニー。里親の家が変更になったと知るや、新しい家に乗り込もうとビーバンの車を盗み出し、妹の娘のトーニャも誘ってひた走る。トーニャは継父に気を使い自分に何も聞いてくれない母親にも絶望しているのだ。そしてこのあと、こんなことになっちゃうの?という位ハチャメチャな展開が待っている…。

 

 

それにしても、娘の誕生日を祝いたいという、ごくささやかな願いなのに、運が悪いというか間が悪いというか。頑張ってもなぜか空回り。それどころか悪い方へ悪い方へと引っ張られてゆく。バニーは法律をあまり気にしないタイプなので、行動がハプニングを産みやすいのだ。ただ、普段偉そうにしている人が困るので痛快でもある。

 

日本のタイトルは「ドライビング・バニー」だが、原題は「The Justice of Bunny King(バニー・キングの正義)」。終盤、自分なりの正義を貫きアクセルを踏み続けるバニーも、ついに観念しなければならない状況にまで追い込まれる。状況をまったく知らない息子に電話で語りかけるバニー。

 

「私なりにがんばったんだけどヘマしちゃった。恥ずかしい」

 

すると息子が応えるのだ。

 

「恥じることないよ。明日がある」

 

最後に車の鍵をトーニャに手渡すバニー。あなたはこのまま走り続けなよ、という意味なのか。しかし、ここから走り続けるのは苦しい。それでも家族という名の下に虐待を許す家には決して戻るな、と告げている。それがバニーの決して譲れないjusticeなのだ。

 

 

映画を観た後で思い出したのは「フロリダ・プロジェクト」。ディズニーランド裏の安モーテルで暮らす貧しいシングルマザーの話。こちらもおすすめです。(→フロリダ・プロジェクト - 映画のあとにも人生はつづく (hatenablog.com) )

 

監督:ゲイソン・サヴァット
主演:エシー・デイヴィス、トーマシン・マッケンジー
ニュージーランド  2021 / 100分

映画『ドライビング・バニー』公式サイト (bunny-king.com)