映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

彼女の人生は間違いじゃない

薄もやの桜並木の向こうからヘッドランプが近づいてくる。やがて車が現れると、防護服に身を包んだ人たちが降りてくる。原発関係の作業員のようだ。そこでカットが切り替わる。どこかの町の空撮。小さな部屋で目覚める女性。冷蔵庫から水を飲むと、炊けたば…

裁き

インド、ムンバイ。小さな部屋で子どもたちに地理を教えている白鬚の男。ナーラーヤン・カンブレ、65歳。時間が来ると町を横切って、イベント会場に向かう。そこではみなが待ちかねたように迎え、カンブレはステージに立って歌う。社会問題を訴える歌だ。と…

ハクソー・リッジ

アメリカ・ヴァージニア州。野山を駆け巡る2人の少年。仲のいい兄弟。20世紀初めの情景。飲んだくれの父親の前で取っ組み合いのケンカ。止める母親。少年デズモンドは落ちていたレンガで弟を殴ってしまう。気を失い倒れこむ弟。「死んでしまうかもしれない……

セールスマン

暗闇にうかびあがるベッド。照明を移動させる音。次にソファ。そして正面に派手なネオン看板。これは演劇の舞台だ。しかし人はいない。 一転して叫び声。ドヤドヤと階段を駆け下る音。アパートが倒壊しそうだという。これは現実だ。主人公らしき男が、助けの…

残像

ポーランド。なだらかな草原で絵を描く学生たち。そこにひとりの女学生が訪ねてくる。 「ストゥシェミンスキ教授は?」 「あそこにいますよ」 指さす方を見ると、丘の上に松葉杖をついた初老の男がいる。 「見ててごらんなさい」 男は斜面を寝転がりながら降…

ある会議室。モニターを見ながら映像を言葉にして語る女性、尾崎美佐子。目の見えない人に映画を楽しんでもらうための音声ガイドだ。映画が終わると、その場にいた視覚障がいを持つ人たちが、ガイドの内容について意見を言う。目が見えない立場で、映画を楽…

夜空はいつでも最高密度の青色だ

青森だったか、在来線の列車の窓から夕暮れの空を眺めていた。白い雪原の上の空はよく晴れ渡り、青色は時間がたつにつれてどんどん濃くなってゆく。このタイトルを見て思い出したのはその光景だった。青と黒のグラデーションはとても幻想的だったが、駅に着…

マンチェスター・バイ・ザ・シー

ボストン郊外。アパートの玄関先で雪かきをしている男。名前はリー。アパートの便利屋で、下水管の詰まりや浴室の水漏れを修理する。仕事を黙々とこなすが愛想が悪い。気に入らないことがあると住民を口汚く罵っては苦情がくる。酒を飲んでは喧嘩。同じ毎日…

草原の河

チベット。標高3000メートルを超える高地に、羊を放牧して暮らす人々がいる。まだ春浅い日に、グルの一家は村を出て放牧のためのキャンプ地に移り住んだ。乾いた風が吹きつのり、強い日差しが肌を灼く。時折降る雪まじりの雨。家族は妻のルクドルと6歳の娘ヤ…

ぼくと魔法の言葉たち

アメリカ、マサチューセッツ州。プライベートなホームビデオが映し出される。ありふれた親子。しかし…。 3歳になる頃 オーウェンは突然消えた 自閉症だと医者は言った 一生話せないかもしれない、と医者は続ける。失意の家族。しかし転機は6歳の時に訪れる。…

はじまりへの旅

アメリカ北西部。鬱蒼とした森の中に7人の家族が暮らしている。父親と、高校生くらいの長男をはじめに男女6人の子ども。鹿を狩り解体して食べ、夜は読書。そして音楽。昼は訓練と称して山道を走り、格闘術を覚え、ロッククライミング。すべて父親のベンが指…

ムーンライト

マイアミ。麻薬地区と呼ばれる一角。瓦礫のようなアパートで、売人のファンはある男の子を見つける。女の子のような繊細な雰囲気をもつその子は、仲間からのいじめにあい、その場所に逃げ込んでいたのだ。ほとんど何も話さずうつむきがちな男の子。名前はシ…

汚れたミルク あるセールスマンの告発

回想は自らの結婚式で始まる。パキスタンの下町。自宅に花嫁を迎えたアヤンは、2階の部屋から隣家に声をかける。窓越しに隣家のテレビでインド映画を見るのだ。パキスタンの庶民の暮らしなのだろう。窓の前に二人並ぶ姿がなんとも慎ましい。 アヤンの仕事は…

彼らが本気で編むときは、

小さなアパートの一室、洗濯物をたたみ終わると、テーブルに置いてあるコンビニおにぎりを食べる女の子。11歳のトモ。夜中に帰ってくる母親は酔って吐きながら眠ってしまう。いつものことなのか、寝起きの母親を残して学校に行く。しかしやがて母親は帰って…

海は燃えている 

地中海。イタリア最南端の島、ランペドゥーサ島。海岸沿いの松の木が低い枝を四方に長く伸ばしている。11歳の少年サムエレは枝の錯綜する頭上に小鳥を探している。やがて小さな枝を折るとナイフで削り始める。パチンコを作るのだ。 サムエレは友だちにパチン…

ブラインド・マッサージ

中国、南京。繁盛するマッサージ院にある日、恋人を連れた王(ワン)がやってくる。院長と幼なじみの王はここで働くため、深圳からやってきたのだ。寮で寝泊まりしながら働くマッサージ師はすべて盲人。王とその恋人、孔(コン)の出現は、このマッサージ院…

人生フルーツ

愛知県春日井市。高蔵寺ニュータウンの一隅に、とても小さな雑木林がある。モミ、カエデ、ナラ、シイ、ケヤキ…。林の中を覗いてみると、その奥にはキッチンガーデンが広がる。野菜70種、果物50種。そしてぽつんと平屋建ての家屋。ここに住んでいるのは津端修…

沈黙 -サイレンス-

長崎、雲仙。熱湯の温泉を体に浴びせられる外国人たち。肌が赤く灼け呻き声が地に満ち、地元で地獄と呼ばれる風景がまさにそこにある。江戸のはじめ、キリシタン禁制の時代に日本に来た宣教師たちだ。 多くの宣教師は拷問の末殉教するか、または棄教した。そ…

The NET 網に囚われた男

北朝鮮の漁村。貧しい漁師の家。寝起きに朝飯を食い、妻を抱く。小さな娘がつぎのあたったクマのぬいぐるみを大事そうに持つ。あたたかである。男はそのまま網漁に出るが、エンジンの故障で韓国領に流されてしまう。 男の名はナム・チョルという。韓国警察は…

ヒトラーの忘れもの

デンマークからドイツ軍が列になって引き上げてゆく。ジープに乗ってじっと観察していた男がおもむろに一人の兵士に殴りかかる。「文句があるか!文句があるか!」ナチスへの憎しみが血だらけの顔を何度も殴りつける。 その男ラスムスン軍曹は、海岸にナチス…

幸せなひとりぼっち

ブーケを買おうとしている老人。二束買うと割引なのだが、一束しか必要が無い。店員に一束なら割引額の半額にすべきだと言い募っている。あきれ顔の店員。次に訪れるのは墓地。墓石のそばにたたずむ老人の手にはブーケが二束。結局店員の言うことを聞いたん…

弁護人

韓国、釜山。高卒だが苦学し裁判官になったソン・ウソクは、弁護士に転じて不動産登記の仕事に乗り出す。1978年、折からの不動産ブームで仕事は順調に拡大、やがて税金問題を専門とする弁護士に転じ、釜山一金を稼ぐと言われる弁護士になってゆく。 金儲けが…

聖の青春

満開の桜の公園の片隅にゴミに交じって一人の男が倒れている。棋士、村山聖25歳。この時七段。誰かに抱えてもらわないと対局場にも行けぬほどに体が弱ってしまっている。座っているのもやっと。しかし将棋を指すという情熱が彼の体を支えている。 村山聖(さ…

湾生回家

湾生とは、戦前台湾で生まれた日本人のことを言うらしい。日清戦争で台湾を得た日本はその後50年にわたってこの島を支配した。その間多くの日本人が海を渡り、多くの日本人がかの地で生まれた。しかし、敗戦後彼らの多くは本土に送還された。その数20万とい…

この世界の片隅に

とても漫画チックな?絵柄にも関わらず、ひとりの女性の半生を確かに見た、そんなどっしりとした印象がある。 昭和19年、広島市内から呉に嫁いできたすず、18歳。段々畑の中腹にあるその家からは、呉の軍港が見下ろせる。夫は海軍の書記官。やさしい義理の両…

手紙は憶えている

目覚めると横に妻の姿を探す老人。その妻は1週間前に亡くなっているが、眠るたびにその事実を忘れてしまう。90歳のゼヴ・グットマン。認知症である。妻の葬儀を終えた彼は、同じ老人ホームに暮らす友人から一通の手紙を受け取る。そこには驚くべきことが書か…

永い言い訳

妻に髪を切られながら毒づく中年男が映し出される。小説家の津村啓。彼は、妻が客の前で本名の「さちおくん」と呼ぶのが気に入らない。「面子が立たない」という。彼の本名は、衣笠幸夫。広島カープ往年の名選手衣笠祥雄と同姓同名だ。それが長く彼の人生に…

淵に立つ

止め忘れたオルガンのメトロノームが感情をざらつかせる。時の流れは味方にならない、と映画は最初に告げている。 山形のとある町で零細な工場を営む鈴岡のもとに、古い友人が訪ねてくる。刑務所から出てきたばかりの八坂だ。二人は何か因縁があるらしくその…

レッドタートル ある島の物語

暴風雨に会い、浜に打ち上げられた男。気づくとそこは無人島だった。男は竹を刈って筏を作り、島を出ようと試みる。しかし、何者かが邪魔をして何度も島に逆戻りしてしまう。ある時、その犯人が大きなウミガメだと気づいた男は、怒って浜に上がったウミガメ…

怒り

八王子の住宅街。ある一軒家に夫婦の惨殺死体が見つかる。壁には犯人が血で書いたと思われる「怒」の文字が…。1年後、犯人は整形を繰り返しながら逃亡を続け、日本の各地で、犯人の特徴を持つ男たちが現れる。 千葉の漁師町に住み着いた素性の知れない男。東…