映画のあとにも人生はつづく

最近見て心に残った映画について書いています

子どもが教えてくれたこと

小さな子どもが病院の廊下を走り抜ける。追いかけるカメラ。 「ジェゾンは食堂にいるよ!」 シャルルが食堂のドアを勢いよく開けると、仲良しのジェゾンが確かにそこにいる。シャルルはジェゾンに本を読んであげてと院内教室の先生に頼まれたのだ。それにし…

万引き家族

スーパーに入ってくる親子。互いに合図しながら店員の目を盗み、息子の方がかばんに商品を入れてゆく。うまくいくと帰りに商店街で温かなコロッケを買う。寒い時期の物語だ。ふと見るとアパートのベランダに凍えるように女の子が座っている。昨日も見たと父…

友罪

ある町工場に、二人の若者が新入りとして入ってくる。元週刊誌記者の益田と、工場を転々としているらしい鈴木。二人は、会社の寮となっている一軒家に先輩社員と暮らし始める。益田は先輩たちともそつなく付き合うが、鈴木は愛想が悪い。部屋がとなり同士の…

フロリダ・プロジェクト

アメリカ、オーランド。夏休みの子どもたち。新しい車がやってくると、6歳の女の子ムーニーは、友だちとモーテル2階の廊下から唾を飛ばしっこする。車のフロントはベタベタ。やがて持ち主の中年女性が、ムーニーのいる部屋に怒鳴り込んでくる。 「今度は何…

オー・ルーシー!

混みあった駅のホーム。さえない年配のOLが所在無げに電車を待っている。うしろから若い男性が何かを耳打ちすると、ホームに入ってくる電車に飛び込む。呆然とする女性、節子。出勤すれば自分よりさらに年配の女性が、興味深げに聞いてくる。しかし日常は変…

タクシー運転手

1980年5月、ソウル。タクシー運転手のキム・マンソプは、学生たちがデモを行い道がふさがれることに苛立つ。客は今にも生まれそうな妊婦で病院へ急いでいるのだ。なぜデモなんかするのか。 「デモをするために大学に入ったんじゃないだろうに」 家に帰ると小…

ニッポン国VS泉南石綿村

2015年4月、大阪府泉南市で「泉南石綿の碑」の除幕式が行われている。この地域は明治の終わりから100年にわたって石綿紡織業が地場産業だったという。 資料写真を背景に監督の原一男がナレーションで説明している。石綿は耐火性や耐久性に優れ安価で生産され…

ラッキー

赤茶けた土地に灌木が茂り、サボテンが立ち並ぶ。そこに大きなリクガメがゆっくりと横切ってゆく。アメリカ南西部。90歳でひとり暮らしの男の一日がまた始まる。ゆっくりとしたウォーミングアップを行い、冷蔵庫に冷やしたグラスのミルクを飲み干す。そして…

あなたの旅立ち、綴ります

人のやることが気に食わない。家政婦がいても、庭師がいても、文句をつけては全部自分でやってしまう。お屋敷の中、夜になると孤独になる。眠れないので薬を飲む。多めに飲んでも死なずにまた病院から戻ってくる。81歳。広告業界で成功した女性、ハリエット…

15時17分、パリ行き

人混みの中、リュックを担いでキャリーバックを引きずる男。その背中をカメラは追いかける。顔は判然としない。ひげ面。そしてサングラス。やがてここが列車の駅だと分かる。男が乗り込もうとするのはアムステルダムを15時17分に出発したパリ行きの列車だ。 …

願いと揺らぎ

観音像のように見える枯れ木が一本、海沿いの集落に立ちすくんでいる。その集落は津波に洗われ、ほとんどが流されてしまった。ひとりの老婆が何もかもなくなった場所で、かつてあった自宅を案内する 「あそこがお勝手口、…ここが玄関か…」 宮城県南三陸町、…

ロープ 戦場の生命線

前方にほのかな明かりが見える。手前に何か羽根のようなものがゆっくりと回転している。暗い井戸の中から外を見上げた映像だ。やがて回転するものが人間だと分かる。井戸に落ちた人間をロープで引き上げているのだ。しかし水を含んだ死体は重く、ロープが切…

スリー・ビルボード

アメリカ・ミズーリ州。さびれた道路に朽ちかけた3枚の広告看板が並ぶ。写真も剥がれ落ち、そこに何も読み取ることは出来ない。「あんな道は迷ったやつか、ぼんくらしか通らない」という道路で、今や広告を出す人間など誰もいない。ミルドレッドはこの3枚の…

デトロイト

1967年、アメリカミシガン州デトロイト。無許可で営業する黒人の酒場が摘発された。客と従業員を次々に車に乗せる白人の警察。やがて近隣の黒人たちが周りを取り囲みはじめる。最後の車が行ってしまうと、黒人たちはやりきれない怒りに任せて周囲の店を襲う…

はじめてのおもてなし

ドイツ、ミュンヘン。ひとりの難民の青年が美容院で髪の毛を切っている。仲間から、その髪型だとドイツ人に嫌われるとアドバイスを受けたのだ。ナイジェリアから逃がれて来たディアロは、難民センターで暮らしながら、難民の認定を待っている。 と、ここで画…

ラサへの歩き方 祈りの2400km

五体投地という言葉に惹かれて映画を見た。―中国チベット自治区の東、マルカム県プラ村。薪をストーブにくべると子どもたちが目を覚ます。標高4000mの高地で人々はヤクを放牧し、薪を集めるために森に入る。父親を亡くしたばかりのニマは、父親の弟ヤンペル…

ルージュの手紙

女性のいきむ声。助産婦の励ます声。生まれたばかりの赤ちゃんを取り出し、白く濡れた小さな体を母親の手のひらに渡す。赤ちゃんのかすかな泣き声。母親の静かなほほ笑み。人が誕生するために発するいくつもの声が生の温かみを伝える。 フランスのとある田舎…

否定と肯定

1994年、アメリカジョージア州。「ホロコーストの真実」を書いた歴史学者デボラ・E・リップシュタットの講演が行われている。そこに乗り込んできたのが、ホロコースト否定論者のデヴィッド・アーヴィングだ。本の副題からして乗り込んできそうだ。「大量虐殺…

希望のかなた

フィンランドの港町。岸壁に打ち付けるたぷたぷという音が、潮のにおいを感じさせる。運ばれてくるのは石炭。真っ黒な石炭の中からひょいと、大きな目をした男が顔を出す。男は町でシャワーを浴び、警察署に出向く。難民申請するためだ。 この男カーリドはシ…

ギフテッド

フロリダ。小学校1年のクラス。3+3なんてばかばかしい。6に決まってる、と偉そうに言う少女。カチンときた先生は次々に問題を出すが、少女は3ケタの掛け算まですべて答えてしまう。 「天才じゃないか?」 驚いた先生は、保護者のフランクに「この子には…

我は神なり

韓国の片田舎。やがてダムができて村は水没する運命にある。そんな村に、嫌われ者のキム・インチョルが数年ぶりに帰って来る。賭場や酒場、行く先々で面倒を起こす。高校生の娘が大学の学費にと貯めていた貯金にも手を付ける。ある時、飲み屋で喧嘩し殴られ…

We Love Television?

深夜の住宅街。車の中である男の帰宅を待つ。帰ってきたのは欽ちゃん、萩本欽一だ。待っていた金髪の中年男は「大将!」と声をかける。驚いて振り向く欽ちゃん。 「もう一回視聴率30%の番組を作りましょう!」 というと、 「うわぁ、こんなにうれしい話をす…

サーミの血

妹の葬儀に出席を拒む老婆。息子に促されてしぶしぶ出かけるが、故郷に宿泊することはかたくなに拒む。老婆の名前はクリスティーナ。しかし、本名ではない。名前を捨て、故郷を捨てたのだ。老婆は、窓越しに見えるなだらかな丘陵を見つめながら過去を回想す…

ポルト

ポルトガルの港町、ポルト。その日暮らしの青年ジェイクは、アルバイト先の発掘現場で、ひとりの女性とまなざしを交わす。考古学を学ぶ留学生の女性マティだ。その後不思議なことに、帰りの駅のホームで、入ったカフェで、ふたりはお互いを見出すことになる…

わたしたち

ドッチボールのチームを分けるためにじゃんけんをする。勝った方が味方を選ぶ。カメラはある一人の女の子の表情をとらえ続ける。いつ自分の名前が呼ばれるか、不安な面持ちだ。呼ばれないと参加もできない。じゃんけんの声と他の子の名前が次々に聞こえる。…

三度目の殺人

暗い川の岸辺にふらふらと歩く男。うしろから歩く男が不意にスパナを振り下ろす。顔にわずかな返り血を浴びた男は横たわった死体に火をつける。見下ろす顔が炎の照り返しに明るんで見える。今男は殺人を犯したのだ、とそう見える。普通に考えれば。 男は三隅…

ダンケルク

1940年5月、フランス北部の港町ダンケルク。英軍の兵士が町中をさまよううち、空からビラが降って来る。ダンケルクを包囲したというドイツ軍のビラだ。直後に銃撃。逃げ惑う兵士が海岸に出ると、数千もの連合軍兵士が砂浜を埋めていた。追い詰められた敗残兵…

幼な子われらに生まれ

モザイクに色分けされた画面。その上を、人の足が踏みつけてゆく。色分けされた地面は遊園地の入り口だ。父と娘が手をつなぎ入ってゆく。楽しげに遊ぶ二人。よくあるシチュエーションなので、離婚した父親が、別に暮らす娘と定期的に会う日だと分かる。それ…

ギフト 僕がきみに残せるもの

カメラに向かって語りかける男。背後にベビーベッドが見える。 「6週間後 あのベッドに きみがやって来る このビデオを撮るのは僕がどんな人間か きみ分かってもらうため できるうちに たくさん僕の姿を残しておくためだ」 男は元アメリカンフットボールのス…

静かなる情熱 エミリ・ディキンスン

19世紀半ばのアメリカ。マサチューセッツ州の女子学校で、信仰を強要する教えに反発し、自らの心にのみ神を問う少女がいた。エミリ・ディキンスン。のちに現代アメリカを代表する詩人となる。 このひとは詩人だった ごく普通の意味から 驚くべき感情を蒸留し…